【Case1】2.意外とこじらせるタイプ (1)
「……あ」
タイミングっていうのは、合うときはやたらと合うものらしく。
金曜の夕方、珍しく早い時間に「一椀」に向かった俺らは、店の前でこの前会った椿さんと出くわした。
「……先日は、どうも失礼しました」
「……あ、いえ」
たまたま三人の先頭にいた俺は、年上の女性にきっちりとお辞儀されて、慌てて頭を下げる。
(あー。今日もかっちりしてんなー)
正直、やりにくい。なーんか、ペース乱されんだよなーこの人。
しかも、なんでだろう。この前会って以来、ときどき変なタイミングで、この人の顔がするっと頭の中に浮かんでくることがあって。その度に、俺は胸の中がもやもやする。
(……この前は気づかなかったけど)
今日も妙に気になる椿さんの顔を盗み見ながら、俺は思う。
もしかして、むちゃくちゃ相性悪いのかな? 俺ら。
前世が敵同士とか?
紺地に白の看板の下で、ぎくしゃくとお辞儀を繰り返す椿さんと俺に、
「こんにちは、椿さん」
俺の後ろから、ミーコがひょこっと顔を出した。
「あ、こんにちは」
椿さんが、見るからにほっとした顔になる。
……固いっていうか、単に男慣れしてねーのかな? この人。
(あ、でも、彼氏いるって)
思い出した途端、俺はまた胸の中がもやっとしてくる。
そのとき、
「ありがとうございましたー」
「一椀」の奥さんの明るい声と共に、目の前の引き戸が音を立てて開いた。
足早に出てきた客に気づいた椿さんが、黒目の大きな目を見開く。
「……お父さん」
――タイミングがいいっていうか、引きが強いっていうか。
店から出てきたのは、よりによって俺らの天敵・田崎警部。
「……おお」
思わぬ近さで対面した愛娘に、警部がぶっとい眉毛の下の目をまるくした。
「……こんにちは」
流れで、そばにいた俺ら三人も警部に頭を下げる。
なかでも、椿さんの隣にいた俺は、彼女と一緒に店に来たように見えたのだろう。警部が俺に、この前とは違う遠慮のない視線を向けた。
「……君は」
頭から足元まで、至近距離からプロの目で一瞬でチェックされ、俺は顔がこわばるのを感じる。




