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【Case1】1.「気づいてない」ってことに気づくのが、一番の難関 (4)

 その後いろいろあって、俺らは山手線のかなり西側にある、今の一戸建てに引っ越してきたわけだけど。


 さすがに、大学生の男ふたりと女子高生が同居っていうのが世間にばれると、翠と俺の社会生命が終わるので、周囲にはミーコは翠の従妹ってことにしてある。ていうか、たとえ周囲にばれなくても、こいつの親父さんにみつかった時点で、多分普通に俺らの生命が終わるんだけど。


 横浜の(親の職業を除けば)ごく普通のJKだったミーコが、なんで都内にあったブルーのアジト=俺らの当時住んでたマンションがわかったかっていうと、そこにはこいつの“特殊能力”が絡んでて。


”能力”っていうか、ひとことでいうと、やったら勘がいいんだよなー。こいつの「なんとなく」で、俺らはこれまでにいろんな危険を回避してきている。


 しかもこの野良JKは、恐ろしいことにスリの達人でもある。これは正直、やられたときは腹立つけど、味方にするとかなり役に立つ能力だ。初対面でこいつに財布を掏られた俺が言うんだから間違いない。


 ちなみに「ミーコ」っていうのは、こいつのことを探し回ってる親父さんの組の人間にみつからないよう、本名回避のために使ってるあだ名だ(重篤な中二病患者である翠は、“コードネーム“と呼んでいる)


 ただし、俺はひそかに、こいつの名前が「葵」っていうのも関係してるんじゃないかと思ってる。翠の行方不明の母親の、「あおい」って名前と同じ音の。


 翠の母親の成海なるみ(あおい)は、十六年前、日本最大の企業グループ「真山まやまグループ」の総裁・真山まやま晴臣(はるおみ)夫妻に捕らえられ、行方を絶った。翠によれば、既に殺害されている可能性が高いらしい。


 残された遠縁の人たちが、警察に彼女の捜索願を出したものの(両親は既に他界していたらしい)、各界に絶大な権力を持つ真山グループによって、事件はもみ消されたという。


 成海碧は、真山夫妻の受精卵を使った代理母出産を請け負い、生まれた子ども――翠を、シングルマザーとして育てていた。つまり翠は、遺伝子上は真山夫妻の子どもなわけだけど、戸籍の上でも実際の生活でも、三歳になる直前まで成海碧と母一人子一人で育ってて。


 ……って、こんなカロリー高めのエピソードのあとだと、代理母とも政略結婚とも縁のない庶民の俺が、なんでここにいるのかマジで謎だけど。


 さっきちらっと触れた、翠が高校時代の俺に目をつけていた理由。それは、俺の外見だったらしい。


 共に身長一七五・五センチの俺らは、面白いくらいにほぼ同じ体格。体重は筋肉の分俺の方が重いが(ラグビーを辞めた今も、筋トレでまあまあの胸板をキープしているのが俺のひそかな自慢だ)、手足の長さに靴のサイズ、ベルトやキャップの穴の数まで同じ俺らは、ご丁寧にピアスの位置は左右逆。


 このそっくりのプロポーションを使って、敵――怪盗ブルーのターゲットを混乱させるのが、翠の目的だったらしい。


 とはいえ、いくらそっくりといっても、俺らふたりを前にして、どっちがどっちかわかんなくなるようなやつはいない。顔の大きさは同じでも、誰もが認める王子様顔の翠と、「なんか怒ってる?」ってしょっちゅう訊かれる治安の悪い俺の顔とじゃまるで違う。


 ついでに髪も、真っ黒で緩いくせのある翠の髪に対して、俺の髪は、カラーリングしまくってる割には傷んでない強靭なサラスト。


 鏡みたいに左右対称に一個ずつつけてるピアスも、翠が右の耳たぶにつけてるのは高そうなプラチナだけど、俺のは左耳の縁の軟骨ピアスだし。


 とどめに、こめかみにピンクのインナーカラーを入れている今、友人どもによれば、俺の見た目は「どチンピラ」らしい。


 失礼な。毎日翠とミーコの分までメシ作って大学行って、たまにバイトで怪盗してる、結構な勤労学生よ? 俺。


 とはいえ、この前テロンとしたセットアップ着てコンビニ行ったとき、ガラスに映った自分見て、「やべーやついる!」って自分で自分に一瞬びびったけどね、俺も。


「……チャットか。知らないものだな、いろいろと」


 ぽつりと翠が言った。


「父や瀬場さんには、周囲になじめていると伝えてきたけれど。実際のところ、そうでもないのかもしれないな、俺は」



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