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【Case1】1.怪盗ブルー登場 (8)

 で、その「一部」の外部生だった翠はといえば、高等部入学後もずっと、成績優秀・品行方正をキープしてて、ついでに帰宅部で。


 そんなわけで、部活も友人関係もまるで接点のなかった俺に、翠は本当に良くしてくれたと思う。

 ……思うんだけど。


 だからって、俺らが友達としてうまくいくかっていうと、残念ながらそこはちょっと難しいとこで。


(んー、なんでだろうなー)


 俺は高い天井をみつめて、顔をしかめる。

 高い天井も、埋め込み式のエアコンやルームライトも。この家ってほんと、高級ホテルみたいなのな。しかも、都内で一番大使館が多い区の、駅近築浅五LDK。


(――割と、誰とでも仲良くなれるタイプだと思ってたんだけどなー俺。自分のこと)


 なのに翠とは、なんかこう、かみ合わないっていうか。同居して半年以上たつのに、あんまり距離が縮まらない。あいつって、人当たりは抜群にいいのに、近づこうとするとどこかこう、壁があって。


 いいやつなのは間違いないんだけどな、あいつ。優しいし、嘘ついてる音しないし。

 寝転がったまま、頭の下で手を組んで、俺はひとり、うんうんとうなずく。

 結構珍しいのよ。あんな、嘘の音がしないやつって。


 なかなか、信じてもらえないとは思うけど。昔から俺は、人の嘘を感じ取ることができてしまう。


 人の声にはそれぞれ、固有の響きがあって。……俺は“響き”って捉えてるけど、それってひょっとしたら、いわゆるオーラみたいなもんなのかもしれない。まあとにかく、俺には聞こえんだわ。そういう、声の違いとはまた別の、個々の違い――響きが。


 で、それがさ。なんかこう、濁るんだよ。嘘ついてるときって。

 濁った響きっていうのが、これまたうまく表現できないんだけど……、とにかく、そう聞こえるんだよね。俺には。


 結果、わかってしまう。相手が嘘ついてることが。


 そうはいってもこれ、俺のコンディション次第のやつで。疲れてたり、そばででかい音してるとわかんなくなるような、ゆるーい能力なんだけど。


 翠、あいつは基本、見たまんまだ。にこやかすぎるし、しゃべりはうさんくさいし、リアクションもなーんかずれてるけど、嘘はつかない。ついでに、謎にオープンマインドっていうか、俺のこの能力の話をしたときも、ちょっと試してみて実際に俺が嘘を当てたら、すぐ信じてくれた。


 今回の依頼内容を俺に伝えたとき、あいつが企画書見せただけで口頭で説明するのを避けたのは、きっとこの、俺の特殊能力のせいだ。この依頼が本当は動画撮影なんかじゃないってことが、自分の声で俺にバレるのを避けたんだろう。


 さっき、食事中のあいつに一瞬感じた違和感。あれくらいなら、嘘っていうほどのこともない、言葉と本心の間のちょっとした“ずれ”みたいなもんだ。多分なんかちょっと、俺に隠してることがあるんだろうけど、そんなの誰でも普通にやってるレベルのこと。あいつの場合、それさえ珍しいんだけど。


 信頼はしてんのよ、だから俺。あいつのこと。

 それに、頭脳担当のあいつと実行担当の俺で、今までずっと役割分担もうまくできてたし。

 だからこそ今回、知らないうちに危ない橋渡らされてたのはショックだったけど。

 それでも、あいつの判断と処理能力に全幅の信頼を置いてるから、俺は今もこんなにのんびりしてられるわけで。


(……でもなあ)


 俺はがしがしと髪をかきまわす。度重なるカラーリングにも負けない、自慢の屈強なサラサラストレートの髪。


 どーもその、居心地が……よくなくて。


 あの、独特のしゃべり方もそうだけど。趣味とか常識が、俺のまわりのやつらとかけ離れてんだよな、あいつ。なんかこう……。


(……うん。相性だわ)


 これまでに何度も考え、その度に辿り着いた結論。


 あいつと俺、どっちが悪いとかじゃなくて。とにかく、合わないんだと思う。相性が。


(しょーがねーよなー、こればっかりは)


 ま、奨学金も取れたし、あいつの便利屋のおかげで、バイト代もちょっとたまったし。やっぱ、近いうちに安い部屋探して、この部屋は出てこ。


 俺は天井に向かって、うんうんとうなずく。


 別に、一緒に住まなくたって便利屋の仕事はできるし。あいつにとってもその方がいいはずだよ、居候抱えるより。いつも、遠慮すんなって言ってくれるけど。


 はあ、とまたひとつためいきをついて、俺はベッドの上で目をつむった。


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