【Case4】4.たまに出すデレしか勝たん (7)
そのまま隣にすとんと腰を降ろした翠を放置して、俺は無言でレポートの続きを始める。
いやもちろん、離れてた間の思い出話とか、感動の再会的なのはアリなんだけど。それはまあ、ミーコが帰ってからでいいかと思って。
てかぶっちゃけ、大ピンチなのよ。この課題。
翠が消えてからしばらく、ミーコとふたり、何も手につかずにぼんやり過ごしてしまった日々が悔やまれる。
つって俺の場合、小学生のころから割といつもこんな感じだけどな。夏休みの最後。
「手伝おうか? 恒星」
やがて、俺のレポート用紙の惨状を黙って眺めていた翠が、控えめに声を掛けてきた。
「マジ? 頼むわ」
俺は即、そのありがたい提案に乗る。
黙って隣でパソコンを起動させる翠を、
(てか、おまえのせいでもあんのよ? この事態)
俺は横目で盗み見た。
翠がいなくなったショックで、しばらくぼーっとしてたのもそうだけど。もともと、英作文なんて手伝わせる気満々だったし、こいつに。
「今、俺さー、めちゃめちゃ焦ってんのよ。英語の手伝いあてにしてたやつが、ずっと捕まんなくてよー」
せっせと手を動かしながら、隣の翠に嫌味っぽく言うと、
「それは困ったやつだな。学部の友達?」
久しぶりの天然が、隣でしれっと炸裂した。
(……ほんっと、こいつは!)
――いやいやいや。
俺は折れそうになった心を、なんとか立て直す。
久しぶりにくらったから、今ちょっとヤバかったけど。
これくらいでいちいちやられてたら、務まんないからね。こいつの隣なんて。
「……まあな。ほんと、困ったやつでさ」
にやっと笑うと、手元に視線を落としたまま俺は言った。
「……相棒だよ。最高の」
――その瞬間、静かな雨のように室内に響いていた、キーボードを叩く音が止まって。
隣で俯く白い顔が、首筋まで真っ赤になったのを確認して、俺は心から満足した。
【 第Ⅰ部 怪盗ブルーより愛を込めて 了 】
お読みいただき、ありがとうございました!
このあとは、
★恒星の恋
★翠と恒星の過去エピソード
★ブルーの敵・真山夫妻
が登場する、第Ⅱ部『秘密の怪盗ブルー』に続きます ⇒⇒⇒
よろしければ、ぜひまたおつきあいください!
[主な参考文献]
◆松本浩監修『美しさと価値がわかる 見て楽しい宝石の本』宝島社 二〇一六年
◆Gemological Institute of Americaホームページ
◆福嶌教偉『小児の心臓移植』PEDIATRIC CARDIOLOGY and CARDIAC SURGERY VOL.30 NO.4 (403-414)(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspccs/30/4/30_403/_pdfより)