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【Case1】1.怪盗ブルー登場 (7)

「依頼人の目的は、“双子の銀河”が盗まれたと世間にアピールすること。それなら、派手に演出した方がいいと思って」


 ミルクティーのカップを片手に微笑む翠に、俺は噛みついた。


「そんだけ? そんな理由で予告状とか出して、わざわざ仕事しにくくする? てか、何なんだよ『怪盗』って。『ブルー』も、意味わかんねーし」


「……そうだね」


 目を伏せて紅茶を一口飲んだ翠は、落ち着き払った口調で続けた。


「ひとつだけ言い訳させてもらうと、予告状は美術館から脱出するころに警視庁に届くよう手配していたんだ。警察が本格的に動きだす前に屋上から逃亡し、ヘリコプターで逃げる姿を目撃される、というタイミングを狙って。あの田崎という警部の存在は、予想外だったな。あんな風に、組織の正式決定を待たず独断で動く警官がいたとは……」


 カップをソーサーに戻すと、翠はテーブルに肘をつき、組んだ手の上に華奢なあごを乗せる。


「『怪盗』については、さっき話した通り、なるべくわかりやすく派手に行こうと思って。もう一つの質問は、『ブルー』の理由だったかな? そっちも単純だ。俺たちの名前から」


「名前?」


 トマトを刺した箸を片手に、俺は首を傾げた。(向かいの席のお坊ちゃまは、トマトはおろか半熟目玉焼きにもナイフとフォークを使う方が「慣れてる」らしいが、庶民の俺は朝メシくらい箸で楽に食いたい)


「そう。葉山はやま恒星こうせいの“葉”と、新堂しんどうすいの“翠”」


 揃えた指先で俺と自分を示す翠の言葉から、


(……あれ? 今)


 こいつに対してはめったに感じることのないかすかな違和感を拾って、俺は一瞬返事が遅れた。


 が、


「……それだと、ブルーじゃなくて、グリーンじゃね?」


 感じたそれは放置して、すました顔の翠に俺は控えめに突っ込む。


“葉っぱ”も“翠”も、青じゃなくて緑色だろう。一般的には。

 ……優秀すぎて忘れがちだが、そういえばこいつは帰国生だった。中学を卒業するまで外国育ちなら、日本語はあまり得意じゃないのかもしれない。


 俺の言葉に、翠がにっこりした。


「うん、どちらも緑色だね。ただ、日本では昔から、緑色を『青』と呼ぶならわしがあるだろう? 青りんごとか、青葉とか。ずっとそれを、興味深いと思っていたんだ。それで今回、いい機会だから、グリーンではなくブルーに。語感もいいしね」


(……はい、了解でーす)


 ……なんだかもう、やってらんなくなって、俺はそれ以上考えるのを放棄した。


 知らねーわ。「昔から」とか。

 なんでわざわざ古い日本語? 帰国だけど古文できますアピールかよ。悪かったな、日本育ちのくせに知らなくて。


 それに、いくらなんでも、「怪盗」ってふざけすぎじゃね? 


 突っ込みどころは山ほどあるものの、なんかもう、全部面倒くさい。


(……知らねーよ。どうせそっちで勝手に決めんなら、もう全部そうして)


 思い出しながら、俺はベッドの上でごろりと向きを変えた。

 はあ、と大きくためいきをつく。


 いくら宝石の持ち主と話がついてるっていっても。やっぱ犯罪だよな、ゆうべのあれ。だからって、俺が自首とかしても事態がややこしくなるだけで、このまま流れに乗るのが一番いいっていう。


(――わかってる)


 俺は眉根を寄せる。


 ほんとはもっと、真剣に考えるべきなんだろう。今の事態は。

 けど、去年の十二月以来、いろんなことに流され気味な俺は、こんなときでも今イチ、そういうモードになれないっていうか。


 再度ためいき。


(――とりあえず、警察につかまんない範囲なら、家主兼雇用主さんのご意見に従いますわ、俺は)


 そう。翠はこのマンションの家主で、俺は居候いそうろう。さらに俺は、あいつが代表をやってる便利屋のバイトでもある。

 正確には、この家の持ち主は翠の父親だけど。親父さんが仕事で海外を飛び回ってて、実質あいつのひとり暮らしだったところへ、半年ほど前、高校卒業と同時に同じクラスだった俺が転がり込んだ形だ。


 同じクラスといっても、かたや高等部から帰国枠の外部受験で入ってきた、優秀で見るからにお坊ちゃま育ちのこいつと、かたや中等部からの内部進学で、内部生の中でも勉強しないんで有名なラグビー部の副部長(俺のことだ)。


 ちなみに、中学受験で入学したあとは揃って遊び惚けてきた俺ら内部生は、高等部への進学にあたって、高倍率の入試を突破してきた外部生たちを畏怖の念を抱いて迎え入れたものだ。そんな外部生たちも、三年間の高校生活を経てこの春付属大学に進んだときには、一部を除けばすっかり俺らと同化しちゃってたわけだけど。



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