【Case4】3.男のスーツは胸で着る説 (2)
昨日聞かされた話。
最初から俺は、見た目であいつにロックオンされてたってやつ。家に住むよう誘われたのも、なんか、弱ってるとこにつけこまれたみたいな。
もっと言うと、見た目っていうその一点でしか、あいつは俺に用はなかったらしい。ずっと。
「なんか、でもさー」
のんびりと蓮が続けた。
「俺とか、あいつと全然接点ないからかもしんねーけどさー。やっぱ変わってない? 新堂って」
「え、どういう?」
俺は蓮を見上げる。
「んー、言葉づかいとか?」
蓮が思い出そうとするように視線を上に向けた。
「帰国だからかもしんねーけど、ノリもさー。昔風っていうか、ドラマとかの吹き替え的な? 気取った感じしねえ?」
「……あー」
俺がいつも思ってるやつだ。
バスローブとか、ナイフとフォークとかの、おまえは貴族かっていう翠の生活スタイル。決まり文句の「相棒」
俺に指摘されてもまるでわかってなかったあいつの顔を思い出すと、なんだか胸が痛んだ。
「ぶっちゃけ変だよなー。新堂って」
へらへら笑う普段通りの蓮の顔に、どういうわけか苛立ちがこみ上げてくる。
「……んだよおまえ。あいつのこと、なんも知らねーくせに」
急に不機嫌になった俺に、蓮がでかい目をまるくした。
「えー? おまえも言ってたじゃん。合わないって、あいつと」
「……そうだけど」
真正面から言われて、俺は言葉に詰まる。確かに、こいつらの前でそう言ってたし、俺。
正直なとこ、今だって余裕で思ってる。
なーんか合わないって。変わってるって。あいつのこと。
……思ってるけど。
「――俺だけなんだよ。あいつの悪口言っていいのは」
ぶすっとしたまま言い切った俺に、
「……へ? なにそれ」
目をまるくしたまま、蓮が吹き出した。
「おいー。なにワガママ発動しちゃってんのー? 恒星」
「うるせーな。いいだろたまには!」
いつものてれっとした口調で突っ込まれて、俺はさらに逆ギレする。
「や、全然いいけどさー」
嬉しそうにまた笑う蓮。
そのとき、ハーパンのポケットに突っ込んだままのスマホに、再び通話着信があった。
表示名は「ミーコ」
「……そろそろ、いんじゃね?」
何か察したのか、にやっとした蓮をにらんで、俺は渋々スマホを手に取った。
『こーちん?』
画面をタップした途端耳に響く、いつもながらまっすぐなミーコの声。
「……おー」
俺は歯切れ悪く返す。
『おはよー。てか何してんの? さっさと帰ってきなよ。こういうのは、時間がたつほど戻りにくくなんだからね?』
まっすぐっていうか、直球にもほどがあんだろ、って勢いで、ミーコがいきなり本題に入った。
ふざけんな家出JK。
「……おまえにだけは言われたくねーわ」
言い返すと、あはは、確かに! とミーコが笑い声をたてた。
『ねえこーちん。『見た目だけ』って言われた気がして、やだったの? 翠君に』
「……」
またもや核心に触れられて、俺は黙り込む。
『こーちんが翠君ちに来たときのことは、知らないけどー』
俺の沈黙を気にせず、ミーコが続けた。
『あたしが来てから今まで、普通に仲良くなってきてたじゃん? うちら三人』
さばさばした口調で話すミーコ。
『『仲間』って、こーちんやあたしだけじゃなくて、翠君もちゃんと思ってたと思うよ? 昨日のは、言葉が足りなかっただけで』
ああ、と俺はちょっと納得する。
「言葉が足りなかった」、それはありそうな話だ。あの、気持ちの表し方の下手くそなあいつなら。
……確かに、言われてみれば、そういうことかもしんねーけど。
『ねえこーちん。うちらに昨日の話するのって、すっごい勇気必要だったと思うんだよね、翠君。……だってさあ、あの翠君だよ?』
真剣だったミーコの声が、笑いまじりになった。
……そうだ。あの翠が、だ。
俺は、声を出さずにうなずいた。
決して他人に弱みを見せようとしない翠が、あんな話を俺らにした。それって結構、すごいことで。