【Case1】1.怪盗ブルー登場 (6)
「俺たちの仕事は、これを依頼主に渡すところまで。あとのことは知らない。知らない方がいいんだ、お互いに。それで、誰も困らない」
整った顔が、無表情に続けた。
そうか、そういうもんなのか……。
「……あ、でも」
ふと思いついて、俺は食い下がった。
「警備会社とかは? これ盗まれて、ペナルティ付かねえ? あと、保険会社とか」
俺、っていうか俺らのせいで、真面目に働く企業の皆さんに迷惑掛けるなんて、申し訳なさすぎる。俺らっていうより、「L家」とか、なんかわけのわからん闇の力が発動しちゃってる感じだけど。
翠が俺から視線を外すと、窓の方に顔を向け、遠い目をした。
「……いいんだ、それは」
……「いい」って、それはどういう――。
口を開きかけた俺に、翠がつと視線を戻す。
ゆっくりと細められたその目は、ちっとも楽しそうじゃないのに。女子みたいにつるんとした唇が弧を描いていく様に、俺はなんだか、それ以上たずねることができなくなって。
無駄に色っぽい微笑みで、まんまと俺の質問を封じた翠は、そのままくるりと俺に背を向けると、
「朝食前に、着替えてくる」
優雅な足どりで、リビングから出て行った。
メシの後、仮眠もとらずそのまま大学に行くという翠と別れて、俺は自分の部屋のベッドに転がっていた。
学費のことを考えるとサボりたくはないものの、今日はもういろいろありすぎて、眠くもないけど座って講義受けてられる状態でもない。まあ、ゆうべの仕事はもともと徹夜の予定だったから、授業に間に合わなかったときのために、友人たちにノートや出席票は頼んである。グッジョブ先週の俺。文系最高。
さっきまで、翠と朝メシを食いながら、俺は引き続きやつを質問攻めにしていた。よく考えたら今回の件で一番重要かもしれないこと――実行犯の俺が知らされてなかった、「怪盗ブルー」と「予告状」について。
(……つか、何なのあれ)
正直、説明聞いた今でも受け入れがたいわ。
俺はベッドの上で、脱力して目を閉じる。
「怪盗」て。中二か。マンガか。こっぱずかしい。
ニュースで、「犯人とみなされる自称『怪盗』は」とか言われてたのすら、今考えると心外なんですけど。
「自称」って、それ、俺発信じゃねーし! 盗んだ犯人は俺ですけど!
……うわー、やっぱ犯人かよ俺……。
俺は抱き締めた枕に力なく顔を埋める。いくら捕まる心配はないとか言われたって、ストレス半端ないわー……。
こんな事態を招いた張本人の翠はといえば、俺の質問に対して、
「ああ、あれね。せっかくだから」
トーストやら目玉焼きやらをばくばく食いながら、悪びれもせず言ってのけたときたもんだ。
昨夜は俺と同様寝てないはずなのに、テーブルの向こうの白シャツに包まれた笑顔は超爽やかだった。
そういえば、俺はあいつが襟のない服を着てるのを見たことがない。ていうか、白シャツとパジャマとバスローブ姿しか見たことないかも。