【Case4】1.敵の敵は味方的な (6)
数分後、無事に降り立った地上には、迎えの車が待っていた。
ケガがないことを瀬場さんに確認されたあと、俺はようやくつけっ放しだったゴーグルを額にはね上げる。
あー、暑かった。けど、つけといてマジよかった。ハングライダーでも風除けになったし。今日の蟹座のラッキーアイテムって、ゴーグルじゃね?
瀬場さんに促され、黒い高級車の後部座席のドアを開けると、中には小柄な先客の姿があった。
「恒星君だね。乗りたまえ」
運転席の後ろに座る、よさげなスーツに身を包んだじーさん。
印象的なかすれた声と真っ白い髪。足が悪いのか、奥のドアには杖が立てかけられている。
言われるまま、座ってドアを閉めると、
「初めまして。新堂です」
ゆったりした口調でじーさんは続けた。
「息子が、お世話になっているようで」
新堂? 息子?
ということは、翠の父親?
俺は慌ててニットキャップを取り、頭を下げる。キャップからこぼれ出る、派手な金髪ゆるパーマ。
目の前のこの人は、仕事で海外を飛び回っているとかで、今まで顔を合わせたことのなかった家主様だ。見た感じは正直、翠の父親っていうより、祖父って感じだけど。
「……初めまして、葉山恒星です。あの、おうちに住ませていただいて、ありがとうございます」
ガキみたいな挨拶になってしまったが、
「こちらこそ。食事の支度から何から、世話になっていると聞いているよ」
翠の親父さんだというそのじーさんは笑いもせず、ついでにいえばチャラい俺の頭に動じた様子もなく、丁寧にこたえてくれた。
「出してくれ」
ハングライダーをしまって運転席についた瀬場さんに、じーさんが声を掛ける。車内の灯りが消えて、車は静かに家のある方角へ走り始めた。
この様子だと、瀬場さんは多分、前に聞いた翠の家に同居してる父親の秘書という人なのだろう。
走行音のほとんど感じられない静かな車内で、時折外からの光に照らされる隣の小さな横顔に、俺は無意識に翠と似たところを探していた。
「……似ていないだろう、翠とは」
俺の方を向いた新堂さんが、さらりと言った。
「私はあの子の義父でね。血縁関係はない」
義父――そうか。
驚きながらも、俺は納得する。
翠や俺の祖父といってもいいくらいの年齢。小柄ながらがっちりした体形も、深いしわの刻まれた顔だちや声も、翠とはまるで違う。
一方で、ちょっとした仕草や頭のよさそうな雰囲気は、どこか翠に通じるところがあった。翠からは、父親の職業は弁護士だと聞いている。
「さっきは大変だったね」
翠の親父さんが、世間話でもするような調子で切り出した。
「……助けていただいて、ありがとうございます」
俺は、隣の親父さんと運転席の瀬場さん両方に、探り探り頭を下げる。
助けてもらった、で、いいんだよな? さっきのは。
そもそも、翠はどこまで親に話してるんだろう。怪盗ブルーのことを。
落ち着かない俺に、
「心配無用だ。怪盗ブルーとやらのことは、翠から聞いている。君やミーコちゃん、それに便利屋のことも」
翠の親父さんが苦笑した。
「……はい」
リアクションに困って、俺はただうなずく。
しかし、考えてみるとブルーのことを知ってて止めない親っていうのも、それはそれでどうなんだろう。しかも、職業・弁護士。




