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【Case4】1.敵の敵は味方的な (3)

 隠れていた川沿いの建物の植え込みの陰で、俺は静かに深呼吸した。


(――そろそろ、大丈夫か?)


 とりあえず、田崎警部はけたみたいだ。

 俺はこのあとの動き方を考える。


 翠の家に戻るのには、さっきの幹線道路のそばにある地下鉄駅を使うつもりだった。もちろん、今の黒装束は脱いで、下に着ている普段着姿になってから。

 だが、今来た道を戻って、田崎警部と遭遇するのは避けたい。となると、別のルートが必要だ。


 考えごとをするときの癖で、髪に指を通そうとして、俺はニットキャップをかぶっていたことを思い出す。


 あーもーうぜえ。あちい。キャップだけでも脱ぎたい。けど、逃げ切るまでは我慢か。

 軽く首を振って、考えをまとめる。


 さっき考えた通り、病院周辺に戻って駅に出るのは危険だ。

 今いる場所から広い道に出てタクシーを拾うのも、運転手に目撃情報を寄せられる恐れがあるからアウト。

 現時点では、歩いて別の駅に出るための最短ルートは不明。てかぶっちゃけ、どこなのここ?

 入り組んだ路地をやみくもに逃げ回ったせいで、位置関係が今イチわからない。


 時間がない。こうしている間にも、警部からの応援要請で周囲には警官が集まっているかも。

 俺は、川の土手に目をやる。


 どんなルートで翠の家に戻るにしろ、目の前のこの川を渡る必要はあるわけだけど。橋までは遠そうだし、夏とはいえ泳いでというのもさすがに厳しい。川幅や流れの速さからいって、向こう岸まで泳ぎ切るだけならなんとかなりそうだけど、びしょ濡れのまま人目につかずに家まで帰る手だてがない。


 ……とりあえず土手に上がって、現在地を把握するか。スマホで翠に相談するのは、そのあとだ。

 パトカーの音もしないし、警官の配備はまだだろう。

 万一、田崎警部自身が川沿いを張っていた場合、土手に立つこちらの姿が丸見えになることだけが気になるが。この暗さだ。まあ、大丈夫っしょ。


 俺は街灯の光の届かない場所を選んで素早く道路を渡り、四つん這いになって小さな石段を登った。


 そのままの姿勢で土手に上がり、地面に身を伏せる。水音が激しい。


 しばらく様子をうかがってから、そっと頭を上げる。

 極力低い姿勢のままで、今いる位置を把握しようと、あたりを見回した。


 その瞬間。


「ハハハ! 引っかかったな、怪盗ブルー!」


 水音を破って、俺の後方からでかい笑い声があがった。


(……やられた)


 離れた位置で立ち上がった田崎警部の、街灯の光で浮かび上がったシルエットを確認して、俺は万が一にも顔を見られないようそちらに背を向ける。


 ちっくしょ。ハメられた。

 一度ならず二度までも待ち伏せされて、めちゃめちゃ気分が悪い。


「やいブルー! このベテラン刑事・田崎たさき直次なおつぐの執念の追跡、逃れられたとでも思ったか!」


 背中越しに様子をうかがっていると、警部がべらべらしゃべりながら、手にしたものを振りまわすのがわかった。


「みつけたぞ、予告状! 真山第一美術館にホテル・マヤマときて、本島美術館はノーマークだったものの、次のターゲットは真山総合病院という私の推理、正しかったことが証明された!」


(……え? そーなん?)


 俺は眉をひそめる。


 いや、その推理は知んねーけど。いつもターゲット決めてんのは翠だし。

 てか、さっきからおっさんが振りまわしてるあれ。さっき俺が病院の壁に貼り付けてきた、予告状じゃね?

 いいのかよ、さくっと剥がして持ってきちゃって。「現場の保存」的なやつって、平気なの?


 刑事もののドラマでよく見る、事件現場であれこれ調べてる鑑識係の人たちの姿を俺は思い出す。つなぎみたいの着て、這いつくばって、「こ、これは……」みたいな感じであれこれ調べてるあれ。


(……怒られるやつじゃねーかなー。その予告状)


 とはいえ、今重要なのは、田崎のおっさんが警察でどんだけ怒られるかじゃなくて、俺があの人から逃げきれるかどうかだ。


 俺はニットキャップを深くかぶり直すと、土手の上でそろりと身体を起こし、おっさんに顔を見られないよう角度をはかって立ち上がる。

 暑いけど脱がなくてマジよかった、黒装束とゴーグル。



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