【Case1】1.怪盗ブルー登場 (4)
「『その話』じゃねーよ! なんだよ、犯罪だったのかよ?! 話がちげーよ。全っ然、『便利屋』じゃねーじゃん!」
思い出したらもう、めちゃめちゃ腹が立ってきた。
こいつが代表やってる、「便利屋・ブルーオーシャン」。そこに来た依頼だと聞かされていた今回の件は、言われてみれば確かに、いつもに比べてやけに大がかりだなーとは思ってたけど。
金持ちが趣味で作る動画の素材作り、っていうこいつの説明信じて、ついさっきまで一晩中走りまわってたっつーのに。
(――待てよ?)
俺の頭の中に、素朴な疑問が生まれる。
なんでだまされた? この俺が。
どうしてこいつの“嘘”に気づかずに――。
「あー!」
気づくと同時に、俺は翠をにらみつけた。
「紙だった!」
急に指差されて、翠が目をまるくする。
思い出した。あのとき、ぺらっと渡された企画書。
その場で目を通した俺に、
『――いけるよな? 恒星』
それだけで話を進めた翠。
依頼の経緯について、ひとことも自分の口ではしゃべらずに。
(――やられた)
まんまとハメられたことを確信して、俺はがっくりする。
そりゃ確かに、俺だって思ったよ? ちょっとやりすぎじゃね? って。本物の美術館とか、ヘリとか使っちゃって。
けど、これまでの依頼内容からいって、金持ちの考えることなんてわかんねーしって思い直して。
なんだよあれ、ガチで犯罪だったわけ? 俺、十九歳でいきなり犯罪者?
頭を抱える俺に向かって、
「……それが、十分『便利屋』なんだよ」
さらりと言うと、翠がダイニングテーブルに置いていた俺の上着を手に取った。
胸ポケットに入ってる、俺が運んだ例の「宝石」。“双子の銀河”、確かそんな名前だった。事前に聞かされた「設定」では。
それを俺が盗んでヘリで逃げる動画を、館内と屋上に仕込んだ特殊カメラで撮って、そこに後から依頼人の顔と声を合成して……って、全部嘘だったんだよな、あの説明。
うなだれる俺の目の前で、ダークブラウンのテーブルの上に、Lサイズの卵くらいある黒い石が二つ転がり出た。
「オパールだ」
翠が片方を手に取って、窓から差し込む朝の光にかざす。
赤・黄色・オレンジ・黄緑……。
光の当たる角度を変えるたびに、様々な色の模様が一瞬ごとに色や形を変えながら、石の中に浮かび上がった。
「……すっげ……」
黒い石の中をキラキラと流れていく色たちに、しばらく目を奪われていた俺だったが、
「……って、え? オパール? やっぱ本物かよこれ?」
ぎょっとして、翠に詰め寄る。
百七十五・五センチの俺と、胸板の厚さ(元ラグビー部としてここは譲れない)以外、ほぼ同じ体格の翠。同じ目の高さで間近に向かい合うと、さすがに圧迫感がある。
俺はなんとなく、左耳の縁に手をやった。股下や靴のサイズまで一緒の俺たちは、ご丁寧にピアスの位置は左右反対だ。仕事のときは外すことにしている、俺の軟骨ピアス。
まあ、いくら体格が似てても、俺らを見て区別がつかないなんてやつはいないけど。なんせ、顔の造りと髪色が違いすぎるし。
てか、撮影用のフェイクじゃなかったのかよ、あの石。
えー嘘、やっぱドロボーなの? 俺。
「言わなかったか?」
すました顔の翠にブチ切れそうになりつつ、一方でどうにもさっきの宝石が気になって、俺はテーブルに視線を戻した。
こんなでかい宝石、手に取るのはおろか見るのも初めてだ。それも二つも。そんな、現実味のない状況だったからこそ、撮影用のフェイクって話をあっさり信じちゃったわけだけど。
「……あれ? でも、オパール?」
ふと、記憶の奥で何かがひっかかった。