表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/215

【Case1】1.怪盗ブルー登場 (3)

『――調べによりますと、『怪盗ブルー』を名乗り、銀座の真山まやま第一美術館から展示中の宝石二点を盗んだ犯人は、十代後半から二十代とみられる若い男性。身長は百七十センチから百八十センチ程度で、手足が長く細身。黒っぽい服装で顔にゴーグルをつけ、頭にニットキャップのようなものをかぶっていた模様です。警察では引き続き――』


「……ふーっざけんなよ!」


 怒りに任せて床に叩きつけたリモコンが、嫌な音を立てた。目の前の、巨大な壁掛けテレビのニュース映像が消える。


「……」


 俺は頭を抱えて、ソファに座り込んだ。


(――意味わかんねえ。マジで)


 ついさっき、仕事を終えて翠のマンションに戻ってきたばかりだ。


 ヘリから車へ、また別の車へと乗り換えながら、途中で全身真っ黒の特殊素材の服も着替えて、ようやく任務完了……のはずが、どうにもあの「警察」騒ぎが気になって。


 うちに着いて、ちょうど朝のニュースの時間だと、胸ポケットに成果品の入った上着をダイニングテーブルに置いたついでに、リビングのテレビをつけてみたら。


 世間は、いや、俺は、一夜にしてえらいことになっていた。


(……怪盗? 予告状?)


 は? 理解、できないんですけど。

 どういうこと? 話違うじゃん。

 俺はただ、ちょっと変わった依頼ってことで、いつも通り翠の指示で動いただけで――そうだ、翠。


 テレビの前のでかい革のソファに身体を沈め、ぐしゃぐしゃとカラーリングしたばかりの金髪をかき回していた俺は、そこではっとして手を止めた。


 玄関からこの部屋に来る途中、浴室前の廊下で聞こえた水音。

 そうだよ。優雅に朝のシャワーを浴びてるあいつが出てきたら、事情を聞けば――。


 コン、ココン。


 ちょうどそのとき、リズミカルなノックの音と共に、リビングのドアが開けられた。


「おかえり、相棒」


 朝の光の中、爽やかすぎる笑顔で入ってくる、真っ白いバスローブを羽織ったイケメン。


 まだ乾ききってない黒髪の下で輝く、なっがい睫毛に縁どられた目と、右耳に白く光るプラチナのピアス。

 こんなときではあるが、いつもながらこいつのゴージャス感というかキラキラ加減は、モデルルームみたいなこの部屋にぴったりだ。


 きっちり左右対称に上げられた口角に軽く圧倒されながら、


「ただい……おまえ、サムくない? それ」


 極度の疲労と混乱のせいか、俺はつい、普段なら我慢するひとことを口にしていた。


 いつも思うんだけど。

 何なの? こいつのこの、「相棒」って呼び方。

 映画の吹き替えかよ。こんなん実際に言ってるやつ、見たことねーし。

 ――まあ、ゆうべ美術館の屋上で言われたときは、おかげで妙に冷静になれたけど。


「え? 『寒い』って……ああ、バスローブはあまり着られていないんだよな、日本では。俺はずっとこれだから、別に寒くは」


 一瞬きょとん顔になった後、俺の言った「サムい」がわからず文字通り「寒さ」について説明し始めた翠に、


「じゃなくて……もーいい」


 俺はうんざりして、話を打ち切る。

 バスローブもアレだけど、今はそこじゃねーし。

 ほんと、こういうとこだよなこいつ。やりづれー。


 そんな俺の態度を気にとめた様子もなく、


「ゆうべはお疲れ様。恒星こうせいのおかげで、すべてうまくいったよ」


 にこやかに言う翠。


「てか、おまえ!」


 げんなりしていた俺は、そこで思い出して立ち上がった。


「なんだよあの警察? 本物だったのかよ? 『怪盗ブルー』って、何の話だよ!?」

「……ああ、その話」


 ぎゃんぎゃん吠え出した俺に、キラキラのスマイルのまま翠がしれっとこたえる。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキングに参加しています。クリックしていただけたら嬉しいです(ぺこり)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ