【Case1】4.Present for you ! (2)
そうだな、確かにあいつは言ったよな、「百万ほど」って。「百万円」じゃなく。
ええっと。百万ドル、はさすがにないだろうから、百万円分のドルか。っていうと、ざっと一万ドル弱?
米ドルならまあ、これから行く山奥は無理だけど、落ち着いてから近くのちょっと大きい街に出れば、銀行でなんとか両替も……ん?
ニヤニヤしながらあれこれ考えていた俺は、そこでふと気づいて、ビニール袋の中身に目を凝らし息をのんだ。
――なんだこの、カラフルな紙幣は?!
よくよく見たら、どうもアメリカドルではなさそうな、知らんおっさんの顔がついた紙幣たち。
事態を把握しようと、俺は慌ててさっきの封筒を開いた。
「恒星へ
同封したのは、およそ百万円分のメキシコペソだ。一ペソ五円の単純換算で、二十万ペソある。かさばってすまないが、メキシコペソには、最大でも千ペソ紙幣までしかないらしい。
なお、普段使いしやすいように、二十ペソ紙幣を多めにしてみたんだが――」
白地に濃いブルーのインクで書かれた、端正な文字。
便せんを握る俺の手が、ふるふると震えた。
「どーゆーこと?」
手紙をのぞき込んでいたミーコが、不思議そうに俺を見上げる。
そうだな。確かにあいつは言わなかったよ、USドルだなんて。「百万」としか。
……けど、メキシコペソって。なんだそれ?
手紙は続いた。
「恒星、おまえは言ってたよな。いつかはカンクンの青い空の下、日がな一日ビーチでナンパだ、って。
これは、そんなおまえとミーコちゃんへの、俺からのささやかなプレゼントだ。
近い将来、メキシコからおまえたちの便りが届くのを、心から楽しみにしている。
アディオス 翠」
……俺の間抜け面を想像して大笑いしてるあいつの顔が、ありありと目に浮かんだ。
いつもすましてるくせに、本気で笑うと急にあどけなくなる、シマリスみたいなあの顔。
「……なにが、カンクンだ……」
ふるふるを通り越して、わなわなと俺の手は震えていた。
メキシコペソなんてそんなもん、メキシコ以外どこで使えるんだっつの!
円に両替するにしたって、ど田舎で目立たずやるのは難しい。
翠、あいつ、俺が当面国内の、それも山奥に潜伏するって、わかってたくせに。
「……ちっくしょー!!!」
腹立ちまぎれに、俺は手の中の札を思いっきり放り投げた。
「ちょっとこーちん?!」
舞い上がるメキシコペソと、慌てて立ち上がるミーコ。




