【Treasure7】 4.(3)
いつかの真夜中のキッチンみたく強引に俺の右肩に埋めた、緩いくせっ毛の頭。プラチナのピアスが、俺の鎖骨の高さで白く光る。
「……だいじょぶだから」
俺は大きな目を開けて固まってるきれいな顔に、覆いかぶさるように顔を傾けると、
「――俺を信じろ、相棒」
その右耳にささやいて、天を仰いだ。
(――どーかなー、これ)
「怪盗ブルー」の始まったあの夜。
銀座の真山第一美術館の暗い屋上で、イヤホン越しに俺の耳に届いた、魔法の言葉。の、ちょっとアレンジしたやつ。
(……なんとか、届いてくんねーかなー)
祈るような気持ちで宙をにらんでる俺の腕の中で、もぞ、と翠が身じろぎしたかと思うと、白い指が俺のコートの裾をふたたびつかんだ。
「……信じ、る」
右肩に落とされた、鼻声の答え。
――俺はそっと息をつくと、
「……よくできましたー」
真っ黒なくせっ毛を、遠慮なくわしゃわしゃかき混ぜた。
(――届いた、みたい。なんとか)
そろりと顔を上げた翠に、
「俺だって、おまえと一緒にもっと遊びたいのよ。いろんなことして」
俺はほっとして笑い掛ける。
「そんで金貯めたら」
続く言葉を、
「カンクンのビーチで、朝からテキーラ、だな」
やたら物覚えのいい王子様顔が、自信ありげに引き取った。
頬に涙の跡をつけたまま、翠が俺を見上げてにこっと笑う。
「……」
その、ピュア! って感じのキラースマイルに、つい目をそらして口元を覆った俺は、
「……そーゆーこと」
手持ち無沙汰をごまかすように、コートの袖口から下に着てるスウェットの袖を引っ張り出して、目の前の濡れた頬をちゃっちゃとぬぐった。
黙って俺にほっぺた拭かれてる、ナチュラルボーンお坊ちゃまな翠。
あーあ、まぶたも鼻も赤くなっちゃって。色が白いと目立つのよね。
「せっかく真冬に雪山行くくせに、銀行とかくそつまんねーこと言ってんなよ。手続きなんてとっとと済まして、目一杯遊んでこよーぜ、スイス」
ジーンズのヒップポケットからパスポートを取り出し、にやっと笑ってみせた俺に、
「……そうだな、相棒」
目を見張った翠が、まだ赤いまぶたで微笑んだ。




