【Treasure7】 2.(3)
翠が話してるのはおそらく、以前話した漫画『エドレンジャー・セブン』のことだ。
そこに出てくる宇宙生物のアリーは、荒れた世界の中でも、幼馴染で飼い主のゴローを敵から守っている。
その一方、主人公の信さんやサクラは、アリーと違って大切な人を失った経験があるものの、その後は新たな仲間と助け合って敵と戦いながら、過去を乗り越えて暮らしていて。
「……心臓移植が間に合わず、幼くして亡くなった真山慧だって」
前髪で目元の隠れた翠が、俺に構わず続けた。
「実質的には、俺が死なせたようなものだ。あのとき俺が逃げなければ、兄は」
「違うだろ、おい!」
とんでもないことを言い出した翠に、俺は思わず大声を出す。
逃げなきゃ、かわりにあのときおまえが死んでたんだろ? たった三歳で、心臓を失って。
「それに、意識の戻らない真山陽子だって」
「翠!」
俺は翠の肩をつかんで、無理やり顔を上げさせた。
さっきから何言ってんだよ、こいつは。
俺に揺さぶられて細い首をのけぞらせたまま、焦点の合わない目で翠が続ける。
「たとえ、わざとではなくても。俺は、罪深い人間だ。そばにいる人を、不幸にする」
「なわけあるか!」
俺のどなり声が耳に入らないかのように、
「住む世界が、違うんだ、やっぱり。恒星たちとは」
無表情に続ける翠。
「翠!」
俺は必死で、翠の視線を捕まえようとする。
聞けよ、翠。聞いてくれ。
「この先だって、わからない。今はおとなしくしていても、いずれまた必ず、真山家は力を取り戻す。そのとき、万一俺の巻き添えで、またおまえたちになにかあったら……俺は」
「翠、聞けって!」
肩にくいこむ俺の指にも気づかないように、
「……無理なんだ」
遠い目をしたまま、翠がぽつりと言った。
「これ以上、傷つけたくない……大切な、人たちを」
短い言葉に込められた、はかり知れないほど重い記憶。
「……」
咄嗟に言葉の出ない俺の前で、翠がゆらりとあごを引き、俺から身を離した。
目を伏せて、緩慢な動作でコートの前を直した翠が、
「このところ、各地の空港でブルーの捜索が行われている」
中に着たジャケットの内ポケットに手を差し入れる。
「これを空港に残し、俺が姿を消せば。ブルーは海外に逃亡したとみなされ、終わりにできると思ったんだ。警察の捜査も……なにもかも」
ようやく焦点の合い始めた目で、翠がブルーのメッセージカードを俺に差し出した。
コートの中の黒のジャケットの下には、長旅に備えてか、いつもの白シャツではなくしわになりにくいタートルネックの白いインナーと、ストレッチ素材のパンツ。そして、その足元に置かれた、アルミのキャリーケース。……こんな小さな荷物しか持たずに、こいつは家を出ようと。
バラの模様が型押しされた、すっかり見慣れてしまった白いカードを無言で受け取ると、俺は自分のピーコートのポケットに手を入れる。
「……俺からは、これ」
差し出した白い封筒に、
「……!」
翠の目が大きく見開かれた。
それは、俺がセバさんから託された、『新堂様』――翠の親父さんからの、息子への手紙だった。