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【Treasure7】 1.(4)

 幸い、というべきか、代理母出産や翠の誘拐未遂の件は、真山家の総意ではなく、真山晴臣の独断によるものだったらしい。その彼が失墜した以上、この先翠が真山家に追われることはなさそうだ。グループ総裁の首をすげ替えて、カリスマ性のあった真山晴臣のイメージを懸命に払拭しようとしている中で、彼の息子である翠をわざわざ探し出して後継者に、と考える者などいないだろう。


 真山晴臣のあれほどまでの血統重視は、さすがに組織的なものではなかったと知り、俺はほっとした。


 グラスを傾けながら、


(そういえば)


 ふと俺は、以前翠と交わしたちょっとした会話を思い出す。


 あれは確か、大学に入る直前の春休みのこと。

 翠の家に引っ越したばかりだった俺は、持ち込んだ荷物を片付けながら、同じ付属大学に進学した翠に軽い気持ちでたずねたのだった。


「新堂ってさー、なんで外部受験しなかったの? おまえなら、東大でもハーバードでも余裕だったでしょ?」


 高校時代、成績がいいだけでなく、学問そのものが好きなことが傍目にもわかるほどだった翠。それがなんでわざわざ、ブランド校とはいえ、中途半端な私大に?


 能天気な俺の問いかけに、翠はひっそりと微笑んでこたえた。


「……むやみに目立つのは、得策じゃないんだ。俺みたいな人間には」


 当時の俺は、その言葉の意味がよくわからなくて、


「……へえ?」


 その場の雰囲気で、なんとなく流してしまったけれど。なにせ、当時は翠の育ちも、あの真山グループとの関係も知らなかったから。


 今ならわかる。なるべく目立たないよう、こいつが実力を出し切らずにいたことの意味が。


(……変わっていくんだろうな、そういうのも。“真山”を倒したことで)


 楽しげにミーコと何か話している、翠の白い横顔。


 これまで、ずっとひとりで息をひそめて生きてきた翠も、これからはもっとのびのびと、能力を発揮していくのだろう。この前の蓮みたいに、新しい友達も作って。


(そうなるといいな。……いや、なってほしい)


 フルートグラスの中の泡の消えかけたシャンパン越しに、翠の笑顔を眺めながら。


 少しだけアルコールの回った頭で、強く俺は願った。




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