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【Treasure7】 1.(2)

「……シャンメリーで酔ってんじゃねーだろーな? おまえ」


 言われるままグラスを持ち上げながらも眉をひそめる俺の傍らで、


「ミーコちゃんの、新たな門出にも」


 翠がにっこり笑ってグラスを掲げる。


 成海碧の事件の捜査と、翠の真山家からの解放。当初の目的を二つとも果たした結果、怪盗ブルーは解散することになった。


 これで、翠と俺はめでたく普通の大学生に戻る。といっても、表向きは別にこれまでと変わらないわけだけど。あー、四月から三年か。ゼミとか就活とか、だりーわー。


 ミーコの方は、先日「一椀」で話していた通り、この春通信制の高校に編入する予定だ。


 翠が調べてみたところ、ミーコが通っていた横浜の高校は、やはり中退扱いになっていたそうで。


 俺らのとこに家出してきた一年の秋以来、ひとっつも授業に出てないわけだから、当然単位はまるで取れていない。よって、通信への編入にあたっても、前の高校からの成績関係の引継ぎ書類は不要。

 とはいえ、在籍証明書は発行してもらわなければならないらしい。


 四十過ぎてできた愛娘を溺愛するあまり、ミーコの政略結婚を無理やり進めようとしたという、横浜の弱小暴力団「仙道組せんどうぐみ」の組長である父親。はたしてその父親にみつからずに編入手続きができるのか、というのが、俺の心配していた点だったが。


「その節はありがとね、翠君。ほんと、頼りになるー」


 ミーコがにこにこしながら、隣に座る翠の顔を見上げた。


「そんな。俺はなにも、たいしたことは」


 穏やかな笑みを浮かべて軽く首を振る翠の顔を、


(――いやいやいや)


 俺は複雑な気持ちで眺める。


 十分、たいしたことでしょうよ。

 ミーコの通ってた高校の事務のコンピュータシステムに入り込んで、各種データを書き換えた上、校長印やらなんやらまでうまいこと偽造して、通信高校への編入手続きに必要な書類一式さくっと仕上げるっていうのは。


 俺の視線に気づいた翠が、


「パスポートや保険証のときよりは、ずっと楽だったさ」


 すました顔で言う。


(……そーだわ)


 げんなりしながら俺は思い出した。

 こいつと亡くなった親父さんで、さらっと作ってたわ。ミーコの、偽のパスポートと保険証。翠の従妹の「新堂しんどう(あおい)」っていう偽名まで用意して。


「ほーんと、“仙道”と“新堂”って、意外と音が似てて便利だよねー。イニシャルも変わんないし」


 のんきに笑うミーコと、うんうんとうなずく翠。

 その傍らで、


(――バレたらどれくらいの罪になんのよ? 公文書偽造って)


 恐怖におののく俺。


 てかこれ、おかしくない? 当事者のこいつらより、俺の方がびびってるって。


 珍しく、俺の正面ではなく隣の席に座っている翠。

 その安定の白シャツ黒パンツ姿を見ながら、


(そうはいってもまあ、バレないようになんとかしちゃうんだろうけどなー。こいつなら)


 若干投げやりな気持ちで俺は思った。


 そのとき、


「あのさあ。聞いてもいいかな」


 ポッ○ーをかじっていたミーコが、思い出したように言い出した。


「そういえば、あたしだけ直接顔見てないんだよねー、真山晴臣」


 ミーコが、翠と俺の顔を交互に見上げる。


「どんな感じのおじさんだった? やっぱ悪そう?」


 俺は無言で翠と顔を見合わせた。



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