【Case1】1.怪盗ブルー登場 (2)
「おとなしく出てこい、ブルー! “双子の銀河”は、絶対に渡さん!」
「ちょ、だから、警部~」
「せめて、もうちょっとお静かに! 苦情が来ますって」
とうとう泣きの入った部下君たちの声を聞きながら、俺はしゃがんだまま、情報を整理しようと焦っていた。
(……本物の警察? 「予告状」? なんだそれ。けど、“双子の銀河”って……)
胸にしまった「宝石」に、ポケットの上からそっと触れる。
だけどこれは――。
そのとき、
『時間だ』
イヤホンに届いた翠の声と同時に、背後からかすかなプロペラ音が聞こえてきた。
間を置かず、上空にヘリコプターが姿を現す。
押し寄せる突風に、俺はキャップを押さえて目を細めた。
突然現れたヘリの姿を追って、激しく揺れる地上からのサーチライトと、
「ヘリだと!? ふざけるな! ブルー、出てこーい!」
絶叫するマイクのおっさん。
――放置でいいのか? これ。
無人の屋上で、判断に迷う俺の耳に、
『……大丈夫』
こんなときでもいつも通りの、静かな翠の声が落ちた。
『少々にぎやかだが、予定通りだ。俺を信じろ、相棒』
(――そうだ。仕事)
一気に頭が冷えた俺は、気を取り直して目標地点に目をやる。
今日一番の見せ場はこれから。
『三、二、一』
翠の合図で、物陰から飛び出した。
目標地点まで注意深く加速し、思いきって踏み切る。伸ばした手でヘリから下がる縄梯子をつかむと、練習通り、すばやく身体を安定させた。
いやー、激しいわ。ハリウッドスタイル。
「こぉおらー! 逃げるな、怪盗ブルー!」
壮絶なプロペラ音の中でも、かすかに聞こえるおっさんの絶叫。
(……だからマジ何なのよ? 「怪盗」って)
遠ざかっていくがなり声に、俺は眉をひそめる。
わけがわからないまま、ヘリにぶらさがって見下ろす都心の夜景は、
「……やば」
曇り空の下でも、十分きれいだった。