【Treasure5】 3.(2)
真山晴臣の長男への心臓移植という、にわかには信じがたい目的による、夫妻の受精卵を用いた極秘の代理母出産。さらには、生まれた子どもと代理母の誘拐。
個人名は出されていないが、手記には成海碧とその息子・翠の身に起きた悲劇が、詳細に記されていた。
ただし、三歳になる直前で真山家に捕らえられた子ども――翠のその後については、「移植手術は行われなかったものの、行方不明」と述べるにとどめられている。
一方、代理母だった二十代の女性、つまり成海碧については、真山家が国内各地に所有する広大な土地のどこかで、既に殺害されている可能性が高いと述べられていた。
――あまりにもセンセーショナルなこの手記が、週刊誌により暴露されたことで、これまで腰の重かった警察上層部も、ようやく真山家への本格捜査に着手することにしたらしい。
そこからの警察の動きは、速かった。
週刊誌による暴露直後の、一月なかば。手記の内容通り、日本海側にある真山家の別荘の一つで、若い女性とみられる白骨化した死体が発見される。
それにより、日本を代表する企業グループ・真山グループは、総裁である真山晴臣の逮捕という、未曽有の危機に瀕することとなった。
調査の結果、十七年前に捜索願の出されていた成海碧であることが明らかとなった遺骨は、遠縁の者の手により成海家の墓に納められた。翠によると、遺体の身元確認に際しては、ブルーが以前警視庁に送った成海碧の闇カルテが大変役立ったらしい。
その各界への強大な影響力から、司法にさえ手の出せない存在とみなされていた、真山グループ総裁・真山晴臣。彼の逮捕の知らせは、世間を大いに驚かせた。
不正な金の動きについてもさることながら、早くに両親を失った若い女性と幼子を巻き込んだおぞましい事件に対して、人々の反発はすさまじいものとなった。
代理母出産の舞台となった真山総合病院は、真山晴臣の亡き長男への心臓移植の計画については知らぬ存ぜぬで押し通したものの、警察の捜査によって成海碧の代理母出産以外にもグレーな医療行為に関する記録がいくつもみつかったこともあり、外来棟・VIPフロア共に患者の病院離れが止まらず、倒産の危機に。
真山グループの主要企業の株価は軒並み暴落し、それはすぐさま、各地の工場・研究所や海外拠点における、生産縮小や閉鎖につながった。
国内外で起こる真山グループの企業の製品不買運動と、解雇された元従業員たちによる抗議活動。
火消しを急ぐ真山グループは、真山晴臣を総裁の座から降ろすと同時に、次の総裁に晴臣と不仲の異母弟を選出。都内にあった晴臣のオフィスは閉鎖された。
東京隣県にある広大な真山の自宅では、晴臣の妻・陽子が昨年末から意識が戻らないまま真山総合病院に入院中であるのに加え、主の晴臣が逮捕されたことで、大半の使用人が屋敷を去った。
ごくわずかな者だけが残った、あの歴史あるアールヌーヴォー様式の建物は、晴臣の悪評と相まって、いまや幽霊屋敷のような雰囲気すら漂わせ、周辺の住民の眉をひそめさせているらしい。




