【Treasure5】 3.(1)
「――なにこれ?」
ネットニュースの見出しに、俺は思わず声をあげた。
一月上旬。なにげなく開いたスマホの画面では、真山グループ総裁・真山晴臣に関するスキャンダルが、週刊誌とその電子記事により、大々的に取り上げられていた。
「なー翠、これ」
「翠君」
それぞれのスマホを手に、ミーコと俺が揃って翠の部屋のドアを開ける。
窓辺に置かれたデスクには、ブルーライトカット眼鏡をかけて、既にコンピュータの画面に見入っている翠の姿があった。背後に立つセバさんの手には、問題の週刊誌が握られている。
「どうやら、警視庁に送られたとある手記を、週刊誌がすっぱ抜いたらしい」
せわしなくキーボードを叩きながら、翠が俺らに告げる。
「手記の内容は、真山家の過去の不正な金の処理と、十七年前に行方不明になった、とある関係者母子に関する告発。筆者は、真山家の顧問弁護士だった相田充好――父さんの本名だ」
「嘘?!」
ミーコが悲鳴のような声をあげた。
「なんで? だって、翠君のパパはもう」
「……ご自身の死後、適当な時期に警視庁に届くよう、手配されていたようです」
疲れた声でセバさんがこたえた。
珍しく自分から口を開いたセバさんに、ミーコと俺は目をまるくする。
「恥ずかしながら、わたくしもまったく存じ上げませんでした。おそらく、皆様方やわたくしに捜査の手が及ばないよう、新堂様がおひとりで判断されてのことだと」
セバさんの言ったことを証明するように、手記は事実関係の一部についてはあえて説明を省き、代理母出産で生まれた子ども――翠については、極力触れずに書かれていた。
――『自分は今、真山家から逃れ、名前を変えて、国内のとある地方で暮らしている。
昨今、ホテル・マヤマのメインダイニングでの食品偽装や、真山百貨店における金のバラ搬入時の警備の不手際による盗難事件等、報道で明らかとなった通り、真山グループの管理体制には綻びが生じているように見受けられる。
かような状況であれば、グループ総裁・真山晴臣の報復を恐れることなく、自分が加担した彼の罪を告発できると判断し、この度この手記をしたためた』
新堂さんの手記は、そんな風に始まっていた。
その内容は、大きく分けて二つ。
一つ目は、真山晴臣の脱税や政治家への不正な金の流れの証拠となる、真山家の裏帳簿と隠し口座の存在について。
そしてもう一つは、二〇〇二年の二月に起こった、真山家に関わりの深いある二十代の女性とその子どもの、失踪事件についてだった。




