【Treasure4】 4.(5)
「……そういえばさ。なんでわかったの? 俺の居場所」
話題を変えるように、恒星がたずねた。
地下牢で翠と合流して以来ずっと怒涛の展開で、たずねるタイミングがなかったが、ずっと不思議に思っていたこと。
昼間とはいえ、自分がさらわれたのは人気のない住宅街の中だった。そのあと地下牢に入るまでの間も第三者の目にふれる機会はなかったから、警察に目撃情報が寄せられたとは考えにくい。したがって、翠たちがそちらから情報を得ることはなかったはず。
そもそも、自分たちは「怪盗」、警察に頼るのは最後の手段だ。
よっておそらく、翠たちブルーには真山側から直接、何らかの方法で自分と翠との交換が持ち掛けられ、その結果、自分がやつらの支配下にあることが伝わったのだろう。
だが、真山グループが所有する土地は全国に散らばっていると聞いている。
この状況下で、翠はいったいどうやって、短時間の内に自分の居場所を特定し、奪取計画を策定したのだろう? しかも、都内に真山の注意をとどめるための陽動作戦まで準備して。
途端に、今度は翠の視線が泳いだ。
「それは、その……」
なんともこたえにくそうな様子に、恒星が目で促す。
「あ……」
形のいいふっくらした唇が困ったように結ばれ、また開くと、消え入りそうな声が恒星の耳に届いた。
「……GPS機能を、少々」
「――は?!」
想定外の答えに、恒星の奥二重のタレ目が最大限に見開かれる。
「なにそれ?! どういうこと?! 怖い怖い怖い!」
両手で自分の肩を抱いた恒星が、廊下の壁にぺたりと背中を貼りつけた。
所在なさげにその前に立った翠が、そろりと白い手を上げると、
「……」
上目づかいで、恒星の顔の方を指差す。
「……これ?」
おそるおそるという手つきで自らの左耳に触れた恒星が、世にも情けない顔になった。
先日新堂にもらったばかりの、翠と素材違いのピンクゴールドのピアス。
その中にはなんと、市場には出回っていない、米軍仕様の超小型GPSが仕込まれていたらしい。
しかもというか、当然というか、その点については翠のピアスも同じで。
「昔、俺がスイスで誘拐されかけたあと、父さんが作ったんだ。親しい業者に頼んで」
自分の右耳のプラチナのピアスを指しながら、目を伏せてぼそぼそと説明する翠。
「……言われてみれば」
ぼうぜんとしたまま、恒星がつぶやく。
「ちょっと不思議だったんだよな。ファッションにはやたら保守的なおまえが、ピアス開けてんの。しかも、片方だけ」
「……すまない。騙したような形になってしまって」
翠が頬を赤らめた。
「黙っているのは、大層気がとがめたんだが。GPS機能のことを恒星に知らせると、万一実際に真山に誘拐されたときに危機感が出ず、相手に気づかれる恐れがあると、父が。……耳たぶごと切られたりしたら、大変だろうと」
「……なるほど。それはやだわ」
翠の言葉に納得しながらも、
(……こっわ)
やはり金持ちのすることはわからん、いや、ヤバいと、改めて思う恒星だった。
十二月十七日の深夜に起きた真山邸でのボヤ騒ぎについては、火事の通報やその後の花火の目撃情報により警官が事情を聞きに来る事態となったものの、真山側が単なる失火と使用人の悪ふざけということで押し通した結果、報道されるまでには至らなかった。
キャンドルスタンドの火が着衣に燃え移った真山陽子は、火傷自体は軽く済んだにもかかわらず、煙にまかれて失神して以来、意識が戻らずにいる。医師の診断によると、原因は不明。
誘拐・監禁されていた恒星は、幸いにして健康状態にはまったく問題なかった。
一方で、翠の銀髪は、「やっぱキャラに合わない」というミーコのひと声で、早々に黒に染め直された。
翠の父、新堂が倒れたのは、真山邸から恒星を取り戻した月曜日の夜から数えて四日後、十二月二十一日、金曜日の午後のことだった。




