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【Treasure4】 4.(2)

 てか、「仕込み杖」って。中身が銃とか、しかも問答無用でぶっ放すとか、それもうマフィアのやり方だから。


(……家風なのかもなー、派手好きなの)


 血は繋がってなくても、やっぱ親子っていうか。


 新堂父子の暴挙にぼうぜんとしながら、冬の夜空に打ち上げられる花火を無言で眺める恒星に、


「どうやら、向こうも無事脱出したらしい」


 運転席から、楽しげに新堂が声を掛けた。


 そうか。あれは、あのふたりの脱出の合図だったのか。


 季節外れの、しかも真夜中の打ち上げ花火が、単なる翠の趣味ではなく意味のある行為だとわかり、少しだけほっとした恒星の隣で、


「では、少し急ぐよ」


 言うやいなや、新堂がアクセルを踏み込んだ。


 ギュギュギュギュギュ!


 本日何度目かの形容しがたい音と共に、あっというまに車がスピードを上げる。


「わー。すっごーい!」


 ミーコが無邪気な歓声をあげた。


「はは。ミーコちゃんもスピード狂かな?」


「大好き! おじさんも?」


「ははは、私もだ。じゃあ、しっかりつかまってるんだよ」


 朗らかに言ってさらにスピードを上げる新堂の隣で、


「……!」


 ごく一般的なスピード感覚を持つ恒星は、顔にこわばった笑みを貼りつけたまま、シートの上で全力で手足を突っ張っていた。




 しばらく走ったあと、住宅街から離れた空き地で車は止まった。

 事前の打ち合わせ通り、闇の中から黒装束の翠と瀬場の姿が現れる。


 ハングライダーを片付けた瀬場が、新堂に代わって運転席に座った。

 恒星は助手席を新堂に譲ると、ミーコを右に詰めさせ、後部座席の中央に移る。

 空いた左隣に、翠が乗り込んできた。


「お疲れ翠君!」


「……ああ」


 開いたドアから冷たい空気と共に流れ込む、翠のまとったかすかな煙の匂い。


 うっすらとミーコに微笑むと、翠は大きな目を閉じてシートに身を沈めた。

 さすがに、真山との直接対決に加えて、ハングライダーでの一日に二回の夜間フライトは疲れたのだろう。憔悴した白い顔には、ところどころ火事の際のものらしいすすもついている。


「だいじょぶ? おまえ」


 恒星が翠に向かって眉をひそめた。


「ああ。……おまえこそ」


 薄く目を開け、だるそうに黒目を動かした翠に、


「俺はもう平気。――さっきの花火で、目え覚めたし」


 憮然とした顔で恒星がこたえる。


「はは」


 楽しそうに笑った翠が、深く息をつくと、思い出したように助手席の新堂に告げた。


「麻酔銃は、使わずにすみました」


「それはよかった」


 前を向いたまま、朗らかな声で新堂がこたえる。


「え?」


 恒星が目を見開いた。


「麻酔銃だったの? あれ」


 地下牢で翠に見せられた、黒い銃身。本物の銃を前にした衝撃と緊張で、形も大きさもろくに覚えてはいないけど。


「……俺は、やつらとは違う。そう簡単に、人の命を奪うつもりはない」


 ヘッドレストに頭を預けた翠が、


「今回は、相手を一定の時間無力化するのが目的だったから」


 言い終えると、ふたたび目を閉じた。


「でも、結局使わなかったんだよな? どうやって逃げ切ったの? 銃なしで」


 恒星の質問に、翠が目をつむったまま誰にも聞こえない声でつぶやく。


「……助けてくれたんだ……兄さんが」


 寝落ちしそうな翠に気づき、ミーコが恒星に目配せした。





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