【Treasure3】 5.(3)
あの図書室の、翠が投げつけて反応させた薬品から出た白い煙の中。
計画通り、俺の服を着て窓辺にいた翠は、部屋を横切って廊下につながるドアの方に。翠の着てた黒装束で暖炉の前にいた俺は、反対に窓に向かって。
すれ違うように、俺らは走った。
白煙の中、俺のスカジャンとジーンズを着た翠が、全力でこっちに走ってくるのが見えた。あいつの目にも、ダッシュしてくる黒装束の俺が映っていただろう。
ゴーグルで、互いの視線は読み取れない。
けど、すれ違いざま、
(――信じるから)
俺の手は、勝手に動いてたみたいで。
煙の中、肩の高さで、一瞬互いの手のひらが重なるのを俺は感じた。
ノールックでハイタッチ。
(――なんで、わかっちゃうわけ? こんなときだけ)
庭に面した窓ガラスに飛び込みながら、頭と顔をかばう腕の陰で、俺の口角はひっそり上がっていた。
背中越し、ドアの前で多分あいつも、同じ表情をしていたはず。
普段は正反対なのにな、俺ら。
(……しかし、あいつの髪色)
この状況下にもかかわらず、息子の身の安全を確信しているのか、軽くハミングしながらハンドルを握ってる親父さん。
その隣で、俺はこっそり思い出し笑いする。
(めちゃめちゃ似合ってたじゃん、あいつ)
あの、ミーコを無言にさせた“ムーンライトシルバー”。俺のスパイラルとあいつのくせっ毛で、質感までそっくり。
マジ、地下牢であの髪色見せられたときは、仰天したわ。
今までいっぺんも髪染めたことないくせに、初めてのカラーリングが、よりによって銀って。……まあ、百パー俺のせいなんですけど。
おかげで計画通り、真山は俺と間違えてあいつを追ってくれた。
今ごろあいつは――。
「……待ってるからな、相棒」
小さくつぶやくと、俺は助手席で目を閉じた。




