【Treasure3】 5.(1)
(あの図書室の窓、防弾ガラスじゃなくてマジ助かったー)
真山邸の庭に突っ込んできた謎の車の助手席に落ち着いて、最初に俺が思ったのはそれだった。
『おそらく大丈夫だ。もとより古い建物だし、図書室があるのはさらにその外れの、あまり使われていない部屋だと父から聞いている。きっとガラスも、昔のままだろう』
地下牢で俺に説明したとき、翠はしれっと言ってたけど。
「おそらく」だの「きっと」だの。おまえさー、あれもし防弾ガラスに替えられてたら、全然逃げれてないからね? 俺。
それどころか、結構なダメージ負ってたはずよ? いくら顔と頭かばって飛び込んでも。
左ハンドルの運転席に座ってるのは、翠の親父さん。後部座席にはミーコ。
さっきの図書室前の庭で、俺が助手席に転がり込むやいなや、
「こーちん!!」
後ろの席からミーコが、思いっきり抱きついてきた。
「大丈夫?! お腹空いてない?! ケガは?!」
切れ目なく耳元でシャウトされる質問と、全力のハグ(という名の気道の圧迫)に、多少むせながらも可能な限り笑顔で対応しようとした俺だったが、
「ゲホ! ……っあ、うん、ごめんな心配かけて。けどちょ、この手……ゲッホ……っだからおまえ! 絞めんなって首ー!!」
猛スピードで走る車の中で、背後から全力で首を絞められながら、質問にこたえ首を絞める手を振りほどいたのちシートベルトを締めるっていうのは、なかなか大変だった。
四日ほど監禁されたあととはいえ、俺はそこそこ元気だったし、腹も減ってなかったけど。
ミーコよ。拉致られてからこの方、いつが一番ヤバかったかっていったら、間違いなくあのときだったからな? もうちょっとで、まんまと絞殺されるとこだったからね? 俺。
「元気でよかった、こーちん! あのね、冷凍してあるから、ホットケーキ! あと、すごいの。さっき翠君のパパが、どかーんって!」
興奮しきったミーコの断片的な説明をつなぎ合わせて推理すると、どうやらさっき聞こえたどえらい破壊音は、この車が真山邸の門を壊して突入したときのものらしい。
門っていっても、公道との境目にある正門じゃなく、そこを入ったあとしばらく進んだ先、多分俺が覚えてる例の砂利の坂道を登ったとこにあった、母屋の前の比較的小さいやつ。
……「あった」と過去形なのは、ついさっきその砂利道を下り始める前に、門らしきものの残骸を見たような気がするから。
あの感じだと、この坂の下にあるらしい正門の方も、派手に壊されちゃってんじゃねーかな。
あーあ、と俺は遠い目になる。
いくら真山に喧嘩売るっつっても、程ってもんがあるでしょ?
知らねーぞ、俺は。この件に関して。
てか、あれだけの破壊活動しといて、目立った傷もへこみもないって。どんだけ頑丈なの? この車。
「……お上手っすね、運転」
不自由な左足は使わず、右足だけで器用に踏み込んで砂利道を下る翠の親父さんに、助手席から俺は声を掛けた。
アメリカンスタイルなのか? メリハリの効いた、むしろ若干効きすぎてる感じもある、大胆な運転。
いつぞや体験した柊二の運転を俺はちょっと思い出す。いや、あれよりはずっとましだけど。
しかしすげーな真山邸。母屋から外の公道まで、こんなに延々坂道続いてんのね、敷地の中で。もう、ちょっとした丘じゃん、これ。
「ははは。これでも昔は、いろいろとね」
機嫌のよさそうな新堂さんにさらりとウインクされて、
「……」
俺はちょっと無言になった。
ほんっと、この親子は。
(てか、何? この車)
ちょっと落ち着いたところで、俺は車内を見回す。




