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【Treasure3】 3.(1)

「ぶえーっくしょい!」


 遠慮のないくしゃみのあと、俺は手錠のかかった手でスカジャンの前を合わせ、身震いした。


 普段ならここで、うるせーとかおっさんぽいとか、ミーコにぎゃんぎゃん言われてるとこだけど。ひとりきりの地下牢では、さすがに誰からも文句は出ない。


(誘拐されると、ちょっとはいいこともあんのな)


 パイプベッドの上に寝転がって、俺は薄く笑う。


 さすが地下牢。二十四時間ついたまんまの天井の蛍光灯にもかかわらず薄暗い、コンクリート打ちっぱなしの空間は、ついでに肌寒くもある。夏なら快適かもしんねーけど、あいにく十二月だからなー、今。


 今、っていうか、今日はいったいいつなんだろう。窓も時計もない環境のせいで、捕まってからどのくらいたったのかわからないのが、地味にこたえる。


 金曜日、大学から帰る途中の真っ昼間の住宅街で、俺は拉致られた。


 人の気配にも気づかないうちに、いきなり後ろから押さえ込まれて、首まわりを圧迫されたと思ったら、秒で意識が飛んで……多分、落とされたんだなあれ。昔、柔道の授業で、ラグビー部のこと目の敵にしてる体育教師にやられたのと似てた。って、特殊な思い出だなー、われながら。


 ちゃちいベッドの上で、俺はまたひっそり笑う。造りはともかく、マットレスが薄いのよ、このベッド。


 まあとにかく、暴れる間もなく気絶させられた俺は、流れ作業的に車のトランクに放り込まれたみたいで。


 気づいたら、手錠と目隠しされて口にはガムテで、狭くてめっちゃガタつくスペースで横になってる、っていう、絵に描いたような詰んだ状態だった。うーわー、なにこれ? っていうね。


 それでも耳はフリーだったから、自分が車のトランクに入れられちゃってるのは音で察して。


 で、トランクの中から異音がすれば通行人に気づいてもらえんじゃねーかと思って、へこんでもいい、てかむしろボコボコんなれ、って勢いで、内側から周囲を、つまりトランクの壁や蓋を、ガンガンに蹴ってみたんだけど。残念ながら、外からの反応はまるでなかった。


 そのまま、何も見えず声も出せない俺の乗った車は、まあまあ長い時間をかけて、どこかへ向かった。


 唯一、車が止まる前、砂利道っぽい長い坂道を登ったのが、身体に伝わる角度と振動でわかった。けど、それだけじゃさすがに、そこがどこかなんてわかんねーし。


 まもなく車から降ろされた俺は、見えなくてもわかるレベルでガタイのいい二人組にみっちりと前後を挟まれ、両手にかけられた手錠を引かれるままどこかの建物に入った。


 しばらくしてようやく目隠しを外された場所は、なんと、でかい厨房の中だった。

 めっちゃでかいけど、しばらく使われてないっぽい感じだったなー、あそこは。どこがどうとかは、通りすぎただけだからわかんないけど。なんかこう、活気がないっていうか。


 まあとにかく、火の気のないだだっ広いキッチンに俺ら三人以外に人はいなくて、目の前には地下に降りる階段。


 冬だし窓の外は暗くなりかけてて、でも日没時刻を考えると、捕まってからそんなに時間はたってなかったと思う。


 俺は当然、めっちゃくちゃ逃げたかったけど、前後を挟まれてる、予想通りおそろしくガタイのいいスーツ姿のおっさん二人に小突かれて、仕方なくコンクリートの階段を降りた。


 降りた先、地下一階のそこは、ワインセラーとかのある地下貯蔵庫だった。まあ、厨房のすぐ下っていったら、普通にそうなるよな。


 けど、きょろきょろしてる俺の前を歩いてたおっさんその一が、壁際にある木の棚の後ろをちょっと触ったと思ったら、足元の床にいきなり四角い穴が開いて。

 うおっとマジかー? って後ずさったりしてる間に、その穴の中にさらに下に降りる階段が現れて、俺は仰天した。


 なにこれ?! 隠し階段とか、ガチなやつじゃん。

 やめてやめてやめて。怖すぎんですけど。




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