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【Treasure3】 2.(2)

 夕闇の中、美術館の屋上では、配置された二人の警官が、慎重に周囲の様子をうかがっていた。


 やがて、一人が足音もなく手すりに近づく。ベテランらしい、体格のいい男性だ。


 警官が無駄のない動きで腕を伸ばし、彫刻の施された白い手すりの向こうに小石を落とす。

 落ちた小石が、真下の庭に設置されていた石像に当たって跳ね返り、美術館の正面入口脇に立つクリスマスツリーに向かって飛んだ。


 巨大なツリーの一番上に飾られた、星の形をした金色の大きなオーナメント。古い外国製の品だというクラシックなデザインの星に、勢いよく飛んだ小石が命中する。

 金属でできた大きなオーナメントが石造りの床に落ちて、けたたましい音があたり一面に響き渡った。


 異音を耳にした警官たちが、瞬時に建物の内外から駆け寄ってくる。

 正面入口から一番に走り出てきたのは、トレンチコートをひるがえした田崎警部。後ろに、若い部下が続いた。


 時間と共に濃度を増していく夜の闇の中、敷地内のあちこちから集まってくる警官たち。彼らが手にした強力なライトの描く軌跡と、錯綜する警察無線。


 小石ひとつが引き起こした地上の騒ぎを、屋上の二人の警官たちは並んで眺めていた。


「……手裏剣しゅりけん術?」


「そのようなものです」


 問いかけた細身の若い警官と、その隣に立つ、胸板の厚い大柄な年配の警官。


「いつもながら、たいした腕前だね」


 若い警官に見上げられて、


「そのようなことは」


 小石を落とした大柄な警官が、控えめにこたえた。


「いや、完璧だったよ」


 細身の若者が、イヤホンに手をやり無線を聴きながら続ける。


「おかげで、下では大騒ぎだ。ブルーの予告状にあった『捕らわれた星の解放』とは、このことかと」


 常識的に考えれば、いくら高価な物とはいえ、クリスマスツリーのオーナメントひとつ落とすために、わざわざ予告状を出す物好きな怪盗はいないはず。


 だが、これまでのブルーの奇抜なやり口から、警察はこちらの期待通り、この件について深読みしすぎているらしい。


 そのまましばらく警察無線に耳を傾けていた若者が、傍らに立つ手裏剣術の心得のある男性に向かってにっこり笑った。


「ツリーに向かって飛んだ角度から、あの石は地上から投げられたものと判断されたらしい。敷地内に侵入したブルーの仕業とみなされたようだ。俺たちにも、下に降りてブルーの捜索に加わるよう招集がかかった」


「……では、そろそろ参りましょうか」


 大柄な男性の答えを合図に、ふたり――翠と瀬場は、偽の制服を脱ぎ始めた。


 警官の変装を解き、ブルーの黒装束になったふたりは、屋上に隠していたハングライダーを手早く組み立て始める。


 数分後、懸命にブルーを探す地上の警官たちを尻目に、夜の闇に紛れて、真山第一美術館の屋上から二機のハングライダーが飛び立っていった。




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