【Treasure3 奪還・上 ~怪盗の流儀~】 1.
一時間後。翠とミーコ、新堂、瀬場の四人は、ダイニングテーブルに集まっていた。
ダークブラウンの広いテーブルの上には、地図や建物の見取り図等が広げられ、その隅で瀬場がノートパソコンに向かっている。
隣の席で自分のタブレットを操作している翠の顔には、血の気が戻っていた。
「恒星君はこの、真山の自宅にいると思われる」
新堂が日に焼けた指で、東京近辺の地図の一角を指差した。
瀬場がパソコンで、該当地域の詳細な地図を開く。
「なにこれ、広!」
画面に顔を近づけたミーコが、声をあげた。
都心から、車や電車で一時間あまり。東京の隣県の、海と山に挟まれた伝統ある別荘地に位置する、広大な真山邸の敷地。
昨日の恒星の誘拐については、いまだに報道も目撃情報もない。
だが、新堂は独自の情報網により、真山晴臣が有する国内だけでも多数ある土地の中でも、隣県にある彼の自宅に恒星が捕らえられていると確信しているらしかった。
「真山と、取引するの?」
ミーコが眉をひそめた。
「翠君、まさかこーちんのかわりに」
言いかけたミーコに、
「ミーコちゃん」
翠が穏やかな声を掛ける。
「間違えないで」
つやを取り戻した赤い唇が、白い顔の中でなめらかなカーブを描いた。
「俺たちは怪盗だ。取引なんてしない」
長い睫毛に縁取られたアーモンド型の瞳が細められ、端正な顔に凄みのある笑みが浮かぶ。
「――盗むんだ」
翌十二月十六日、日曜日。
どんよりとした雲に覆われた寒い朝、銀座の一等地にある真山第一美術館に、早番の女性館員が出勤してきた。
「おはようございます。寒いですねー」
「ほんとにねえ。ご苦労さん、はいこれ」
顔見知りの守衛から鍵を受け取ると、館員は美術館の正面玄関の前を横切り、従業員用入口へ向かう。
「……あら?」
視界に見慣れない物が映った気がして、彼女は振り向いた。
そのまま、不思議そうな顔で玄関の扉に近づく。
真山家の家紋がデザインされた、真山第一美術館の重厚な正面玄関。
その扉に、バラの模様が型押しされた、小さな白いカードが挟まれていた。
――「真山晴臣様
捕らわれた星を、解放させていただきます。 ――怪盗ブルー」




