【Treasure2】 1.(2)
「いただきまーす!」
五人で囲む朝食のテーブルに、ミーコの声が響き渡る。
「……うっせ」
俺のつぶやきは、
「ミーコちゃんはいつも元気だね。大いに結構」
「ありがと、おじさん!」
翠の父親・新堂さんとミーコの、昭和のホームドラマか、っていうほほえましいやりとりにかき消された。
南向きの掃き出し窓から朝の光が差し込む、新堂邸の広いリビング・ダイニング。
ダークブラウンの重厚なダイニングテーブルの短い辺、いわゆるお誕生日席についた、翠の親父さん。その右手には俺とミーコ、左手には翠とセバさんが座っている。
今朝のメニューは、炊き立てのご飯と大根の味噌汁、塩鮭と温泉卵に、湯豆腐、青菜のお浸し、里芋の煮つけ。デザートはうさぎりんごとヨーグルトだ。その他にも、焼き海苔、梅干し、しらすにたらこに納豆に大根おろしと、広いテーブルには飯の友がこれでもかと並べられている。
帰国したばかりの新堂さんに久しぶりの和食を堪能させたいという、セバさんのホスピタリティ(?)から爆誕したらしい、胃腸に優しい豪華メニューだ。
「ねえねえ翠君。次のブルーの作戦は?」
うさぎりんごにフォークを刺したミーコが、斜め向かいの翠を見上げて、朝っぱらから微妙な話題を持ち出した。
俺は味噌汁のお椀越しに、隣のミーコを横目で見る。
真山百貨店で金のバラを奪ってから、かれこれ一か月くらいになるか。元気余ってんだろうなー、こいつ。
「……そうだね。今、考えているところ」
俺の向かいで、背筋を伸ばし茶碗を片手に穏やかに微笑む翠。
そこへ面白がるように、
「あいかわらず、ミーコちゃんのスリの腕は確かなのかな?」
親父さんが口を挟んだ。
ふとそちらに向き直った翠が、
「……それだけですか? 父さん」
大きな目を父親の皿にやる。
つられて、俺もそっちを見た。
俺らのより小ぶりな茶碗に、半分もよそわれていないご飯。他のおかずの皿も、どれも盛りが少ない。
「すまないが、あまり食欲がなくてね。ゆうべのすき焼きを、食べ過ぎたせいかもしれないな」
笑ってこたえた親父さんに、
「昨日だって、あまり食べていなかったじゃないですか。機内食でまだお腹がふくれているとおっしゃって」
翠が食い下がった。
「はは、食べ盛りのおまえと一緒にされては困るよ。情けない話だが、この年になればジェットラグもなかなかこたえてね」
テーブルを囲む面々を見渡しながら、さらりと派手なウインクを決めた親父さんに、
「……」
ミーコと俺は、無言で茶碗のメシをかきこむ。
ほんと、血は繋がってなくてもこういうとこ親子よね。翠と新堂さん。
斜め前の席のセバさんは表情を変えず、きれいな箸遣いで鮭の骨を外している。
「もしも体調が悪いのなら、早めに言ってくださいね?」
若干乱れた空気を気にせず、翠が新堂さんに念を押した。
「わかったわかった。まったく、瀬場といいおまえといい、気持ちはありがたいが、少々私のことを年寄り扱いしすぎじゃないか?」
朗らかに手を振る親父さんに、
「……そんなことは」
苦笑しながらも、翠が探るような目を向けた。
親父さんの体調を気遣っていた俺らは、このとき、急速に近づきつつあった別の危機には、まだ気づいていなかった。




