【Treasure1】 3.(1)
(……俺の世話焼き体質も大概なのは、わかってるけど)
その夜遅く、風呂上がりにキッチンの調理台にもたれて水を飲みながら、俺はぼんやり考えごとをしていた。
翠もミーコもとっくに自分の部屋に引き上げて、キッチン以外の電気が落とされた、新堂邸の一階。あたりは静まり返っている。
真っ暗な広いリビング・ダイニングの中、ぽつんと浮かぶ宇宙ステーションみたいな、タイル張りのカウンターキッチンで、俺はなんとなく天を仰ぐ。
(普通に、ほっとけねーだろ。あんなの)
この前の真山百貨店での事件のあと、翠が口にした言葉が、俺の中でずっとひっかかっていた。
――『俺が、俺でいる意味がないように感じてしまうんだ。この計画を、成し遂げなければ』
母親の復讐、つまり、真山グループ総裁・真山晴臣が自分たち母子にしたことを明らかにするのが、自分のミッションだって言い切った翠。
……そりゃ確かに、大事なことなんだろうとは思う。もともと、十五歳になったばっかのあいつが、真山家に狙われてんのを承知で海外から日本に戻ってきたのは、それが目的だったわけだし。
(……けど、そこまで?)
俺は、まだ乾ききっていない髪をわしわしとかき回す。
気負い過ぎじゃねーかなー?
まるで、「母親の復讐をしないなら生きてる意味ない」みたいな、翠の言い方。
そういうもんじゃねーと思うんだけどなー、俺は。
口が、勝手にへの字になるのがわかる。
だってさ。
……んー、うまく言えねーけど。
あいつが生きてんのは、母親じゃなくてあいつの人生でしょ?
それに、こう言っちゃなんだけど。行方不明、っていうか多分亡くなってるっていう、あいつのお母さんだってさ。自分の復讐とかより、まずは楽しく生きてってほしいんじゃねーかなー、息子には。
それと、もう一個思うのは……。
って、頭の中でそう思いかけただけで、
「……!」
なんかもう、めちゃくちゃ恥ずかしくなってきて。
誰もいないキッチンの中で、俺はぐりぐり肩や首を回す。
(えーっと)
……こんなの、わざわざ言葉にするのもアレだけど。
あいつが、「復讐」しても、しなくてもさ。
どっちにしたって、俺らはここに――あいつのそばに、いるのになー。
……みたいな?
って、あー! なにこれ! ハズいんですけど!
「……うあー」
(顔、熱ちー)
無性にこっぱずかしくなってきて、俺は生乾きの髪を、わしわしとさらにかき回した。
やべーなこれ、俺のキューティクル。
「……」
ちょっとだけ落ち着いたところで、指先で髪を直しながら俺は思う。
あいつって、なんか。あれだけ女子にモテてんのに、気づいてないのもそうだけど。
(……他人に好かれてるって自覚が、薄いっていうか)




