【Case1】2.小型で非常に勢力の強い○○○○ (6)
ぽかんとした俺をよそに、
「はいっ!」
JKがビシッと右手を挙げた。
「パパたちから、かくまってほしいです! あと、怪盗ブルーに入れてほしいです!」
「……はああ?!」
俺はテーブルに手をついて思わず立ち上がる。
待てコラ! 何言ってんだおめーはこのスリ!
と、
「構わないが、身の安全は保証できないよ?」
王子様スマイルをキープしたまま、さらにとんでもないことを翠がぬかし。
「……はああああ?!」
俺は、奥二重の目をめいっぱい見開いた。
ちょ、翠、おまえまで! いったい全体なに言ってんのこいつら?
「ダメにきまってんだろーがゴラア!」
もー我慢ならねえ。
翠にかわって、俺は野良JK・ミーコをどなりつける。
「無理だっつの! いくら弱小でも、ガチの組から人ひとりかくまい続けるなんて、便利屋のキャパ超えちゃってんだろーが! あと、俺らは素人なんか入れずにスマートにやるから! 女子高生はおとなしく高校行ってろ!」
まったく、翠もこいつも、○クザなめんじゃねー。
てか、まだちびっこだぞこいつ。怪盗ごっこなんて巻き込めるかよ。女の子だし、なんかあったらどーすんだ。
「えー。高校なんて、多分もう退学になっちゃってるよ。もともと、ヤ○ザんちの子だって引かれまくってたの、寄付金積んでなんとか入れてもらったんだもん」
しれっとした顔でJKが言う。
「あと、スマートは翠くんの担当でしょ? こーちんは体力担当なんじゃん?」
誰がこーちんだ! あと、俺だってスマートもできるわ!
「……あたしのこと、かわいそうじゃないの?」
不意に、猫みたいな大きな目が、悲しそうに俺を見上げた。
「……」
俺は胸をつかれて言葉に詰まる。
……そりゃまあ、出たいのはわかるよ俺も。そんな家。
けど、かくまうのはまずい。
「そりゃそーだけどよ……」
口ごもった俺に、
「かくまってくれないなら別に、警察行ってもいいけど」
あっさりと、えげつないことをJKが言い出す。
「『親切なお兄さんたちに頼ろうとしたけど、怪盗ブルーだからムリって言われました』って言うから。警察で」
「……おい!」
口の減らないJKに俺が言い返す前に、翠がしゃらっと口を挟んだ。
「かくまうのはまあ、君の頑張り次第だね、ミーコちゃん。それと、怪盗の方は」
「待ておい! そもそも、怪盗なんておまえが勝手に言い出しただけで、まだ認めてねーんだよ俺は!」
話の途中で俺に噛みつかれた翠が、黙って両手を肩の高さに上げてみせる。
「俺はなあ! 便利屋で小金貯めたら速攻メキシコ飛んで、カンクンのビーチで昼間っからテキーラ飲んで、メキシコ美女のヒモにしてもらうの! それが俺のライフプラン!」
前に、商社マンやってるラグビー部のOBが言ってた。メキシコの有名リゾート地・カンクン、海がきれいで最高だったって。
勢いで繰り出した俺の魂の叫びに、
「それいい! いいよねビーチ!」
「だから、おまえはそのプラン入ってねーんだよ! この野良JK!」
「……そうか。知らなかったな、恒星のライフプラン」
なぜか、のんきに乗っかってくる二人。
「素敵な計画だね」
爽やかな笑みで俺を見上げた翠に、
(翠おまえ、ほんと! そーゆーの、いらねーから!)
俺は心の中で、声にならない叫びをあげた。
マジ、なんなのこいつら。怖い。怖すぎる。
……結論だけ言うと。
俺の必死の抵抗にもかかわらず、俺たちは、十八と十九の男二人(翠は早生まれだ)と女子高生の同居っていう、警察にみつかったら即人生の終わり、野良JKのオヤジにみつかっても即人生の終わりの、ありえない生活に突入したのだった。




