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【Treasure1】 2.(4)

「こんにちはー」


 紺地に白で「めしどころ 一椀いちわん」と書かれた看板の下の、白木の引き戸を開けながら、俺は店の中に声を掛ける。

 試着祭りのおよそ三十分後、俺ら三人は昼飯を食おうと、近所にある行きつけの定食屋に来ていた。


「いらっしゃいませ!」


 空いたテーブルを拭いていた黄色い頭の店員が、俺の声に反応して、猛烈なスピードでこっちを振り向く。

 正確には、俺の声っていうより、俺の連れの野良JKに反応してんだけど。


「ミーコさん、今日の赤リップもかわいいですね!」


 俺に続いて店に入ったミーコを見るやいなや、黄色い頭の店員――柊二が、小さな目をキラキラさせて絶賛した。


「ありがとー。さすが柊二しゅうじ君、わかってるよねー!」


 それを臆せず受け止めるミーコ。


 いつも通りテンションの高いふたりの会話に、入口そばのレジの中で、店長の奥さんが苦笑している。


 柊二というこの若い店員は、奥さんの甥っ子だ。一年くらい前に名古屋から出てきて、店の二・三階の店長夫妻の家に下宿しながら働いている。二個下のミーコにうっかりひとめ惚れしたらしく、俺らが店に行くたびに何かとサービスしてくれるいいやつだ。ミーコの方はまるでその気がないらしいのが、気の毒なんだけど。


「奥のお席へどうぞ!」


 ランチには少し遅い時間。客は、カウンター席に一人と、三つあるテーブル席の手前のテーブルに二人いるだけだ。


 俺らはここに来るとき、大抵遅めの時間を狙う。他の客が帰ったあとなら、店長夫妻が飼っている白猫のフーちゃんと遊べるからだ。


 料理の腕は抜群だが厨房に入ったきりの、スキンヘッドの強面店長と、明るくて面倒見のいい奥さん。見た感じ奥さんの方がだいぶ若いけど、この夫婦の実権は奥さんが握ってる、っていうのが俺の見立てだ。


 柊二に案内されて俺らが奥のテーブルにつき、注文を終えたところで、入口の引き戸が開いた。


「いらっしゃいませ。あら、田崎たさきさん」


 奥さんの声に、俺ら三人の間に緊張が走る。


「お休みの日に、めずらしいわね」


「いや、家にいてもどうも落ち着きませんで」


 割烹着を着た奥さんの案内で、くたびれたトレンチコート姿の中年男性がカウンター席に腰掛けた。


 四角い顔にぶっとい眉毛、常連なのにやたら硬い受け答え。

 警視庁の田崎警部――ブルーの天敵だ。


 俺は、そっと背後のカウンターの様子をうかがう。


 怪盗ブルーの最初の事件である、銀座の真山第一美術館での宝石盗難事件から、ホテル・マヤマでのレシピ盗難騒ぎに、小規模美術館からの名画「借用」事件、そして、この夏の真山総合病院外来棟での、「電力少々頂戴します」事件まで。ブルーのほぼすべての現場に現れてきたこの警部は、警察上層部からの捜査への圧力にも負けず、独断でブルーを追い続けている。


 もっとも、翠によれば最近では警察内でも風向きが変わり、警部の主張してきた「ブルーのターゲットは真山グループ」という説が、徐々に浸透しているらしいが。


「田崎さん、今、お忙しいんじゃないの? ほら、先月のデパートで」


 警部の脇に立った奥さんが、声をひそめた。



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