【Treasure1】 2.(3)
言いにくそうに、翠が口を開く。
「あくまで、俺にとっての話として聞いてほしいんだが。この種の衣類は、スポーツ用という認識で」
「……あー」
こいつの言いたいことがわかって、仕方なく俺はうなずいた。
そりゃまあ、いいレストランとかは入れないだろうけどな。Tシャツ同様、ハーパンも。
けど、俺の持ってる中では、割ときれいめのやつよ? それ。
「……翠君って、ほんとに王子様なんだね……」
絶句しているミーコの隣で、どうしたもんかと俺は天を仰いでわしわし前髪をかき回す。
……これはちょっと、思ってたより強敵かも。
その後の展開は、ある意味、予想通りだった。
俺らが試着させた、アロハだのセットアップだのカーゴパンツだのに、
「すまないが、この柄はなんだか目がチカチカして。鏡を、直視できない」
「これはどう見ても、寝間着にしか……」
「よく考えられたデザインだし、機能性が高いのもわかるんだが。この服のコンセプトと俺の生活スタイルが、あまりにもかけ離れているようで」
翠は、ミーコと俺が想像すらしなかった斜め上のコメントで、ことごとく拒絶反応を示し。
「……今日は、この辺にしとこっか、こーちん」
「だな」
四、五枚試したところで、ミーコと俺は諦めてうなずき合った。
うん。なんか、時間が必要って感じ。
長期戦だわ、これ。
翠と「今どきのカジュアル」の相性の悪さに、顔に生温かい笑みを浮かべたまま、思わず無口になる俺ら。
他方、ようやく解放された翠は、
「……少し、休んできてもいいか?」
つぶやくと、肩を落として二階の自分の部屋へ上がっていく。
(やべー、やりすぎた?)
階段の下で翠を見送りながら、ミーコと俺は目を見合わせた。
結構弱ってんなー、あいつ。
反省しつつも、とりあえず翠を待つかと、俺らはリビングに向かった。
並んで廊下を歩きながら、
「……きれいな色だね、それ」
ふと、ミーコが俺の顔を見上げた。
昨日染めたばかりの俺の髪。
「銀色? こーちんも結構色白いから、こんくらい明るい色でも映えるねー」
首を傾げたミーコに、
「……“銀”じゃねーのよ、これ」
俺は、笑いをこらえながら言う。
やべー。思い出したら、超笑えてきた。
「え? じゃあ何色?」
たずねられて、俺はわざとドラマチックに発音した。
「……“ムーンライトシルバー”」
パンチの効いたネーミングに、
「……」
ミーコのでかい目の瞳孔が開く。
「……」
そのまま、無言で俺の顔を凝視するミーコ。
「……おい、なんか言えって」
いたたまれなくなって、俺はミーコにコメントを強要した。
「……」
それでも、かたくなに口を開こうとしない野良JK。
ちょ、俺のせいみたいな顔してんなよ。
てか、表情! “無”になっちゃってんぞ、顔が!
「しょーがねーじゃん! 店の人が言ったんだって! そういう名前の新色です、って」
ついにキレた俺に、
「別に、なにも言ってないし」
ミーコが冷ややかな声を出す。
くっそ。腹立つなーこいつ。
「パーマもかけたよね?」
そこで、ミーコが質問を変えた。
「あー、スパイラルちょっと入れた」
髪色の件をなかったことにされたのは気に入らないが、渋々俺はこたえる。
美容師さんのおすすめに従った結果、俺のサラストは現在、珍しくゆるふわ気味に仕上げられている。
「かわいいね」
“ムーンライトシルバー”ってネーミングはスルーしたミーコも、仕上がり自体は気に入ったらしく、背伸びして俺のもみあげをちょっと触ると、うんうんとうなずく。
「なんか、宇宙人みたい」
――宇宙人?
「……どーも」
微妙な気持ちになりながらも、とりあえず俺は礼を言った。
紫っぽいシルバーがきれいに出てんのは、自分でも気に入ってんだけど。
誉め言葉か? 宇宙人って。
マジで、JKの「かわいい」は謎。




