【Treasure1】 2.(1)
「これは、何のために? どんなときにかぶるんだ? 恒星」
パーカーのフードを指差して、ピュアな瞳が俺の顔をのぞき込む。
「……いや、かぶんなくていいから」
なんともいえない気持ちで、脱力しながら俺はこたえた。
「何のためって……あー、デザインよ、デザイン。目的とか機能はまあ……気にすんな」
こんな王子様顔に、かぶられてたまるかっつーの。パーカーのフード。
最近は結構かぶってるやつも見かけるけど、基本はラッパーか小学生男子でしょ、こういうのかぶんのは。あと、闇落ち系??
二十三区の西寄り、緑豊かな住宅地に建つ新堂邸。
くすんだ色合いの赤い屋根や、シンボルツリーのオリーブがおしゃれなこの家の、でかくて重い玄関ドアの先、広い上がり框で、俺らは謎な会話をしている。
「玄関マット」と呼ぶのが憚られるような、ふっかふかで複雑な色をした高級感漂う敷物。その上で、俺のライトグレーのパーカーを着せられてぎこちなく立っている翠と、隣の俺。
俺らの視線の先にある、壁に掛けられた全身が映るでかい姿見。
「んー……、なんっか違うんだよね」
翠のまわりをちょろちょろとび回って、いろんな角度から眺めていたミーコが、不思議そうに首をひねった。でかい猫目が細められる。
「見慣れないからかなー。翠君って顔もスタイルもいいし、こんな普通のアイテム、余裕で似合うはずなんだけど。なーんか、パーカーだけ浮いてるみたいな? 服と身体の間に、謎の空間が生まれてるよね」
ミーコの言った「スタイルいい」という言葉に、俺は内心ちょっと照れる。
なにせ、翠と俺とは全身ほぼ同じスタイル。
共に身長一七五・五センチ。体重は筋肉の分俺の方がちょっと重いけど、股下や靴のサイズからキャップの穴の数まで同じで、ピアスの位置だけ左右逆だ。翠の右耳にはいつものプラチナ、俺の左耳の縁の軟骨には、今日はイヤーカフ風の艶消しステンレス。
……ただ、首から上の造りはまるで違う。
端正な王子様顔の翠に対して、ちょいタレ目の奥二重で、年中まわりから「なんか怒ってる?」って訊かれる、治安の悪い俺の顔。おかげで、ラグビー部だった中高生のころは、身体が細い割に威圧感出せて、なかなか便利でもあったけど。
ついでにヘアスタイルも全然違って、生まれてこのかた十九年間染めたことがないっていう翠の真っ黒なくせっ毛に対して、度重なるカラーリングにも負けない強靭な俺のサラスト……は、今はちょっと、イレギュラーな状態だ。
「……これが、日本語でいうところの『しっくりこない』というやつなんだろうな。きっと」
玄関脇に掛けられた鏡を見ながら、外国育ちの翠が肩を落とした。
「こんなにも実感したのは、初めてだ」
「いやいやいや」
俺は慌てて、珍しく丸まっちゃってる細身の背中をばしばし叩く。




