★おまけ★ 3.夜の猫は遊びたい (3)
「……金色なんだな。フーちゃんの瞳は」
そう言ったスイが、くるんとした睫毛を伏せると、お手手の上のアタシの前足にお顔を近づけた。
(匂い、くんくんしたいのかしら?)
猫なら普通のご挨拶だけど。人間がするのは、ちょっと珍しいわね?
そう思いながらじっとしてたアタシの目の前で、スイがさらにお顔を伏せたかと思うと、ふかふかのアタシの前足に、そうっとそのまま唇をつける。
(……えっとー)
何かしら? これって。
ぽかんとして、アタシはすぐそばにあるスイの真っ黒な髪の毛を眺めた。
……だって、びっくりするじゃない?
スイって、普段はいつも、ちょっと離れたとこからアタシのこと見てるだけなのに。
いきなり、こんなのって。
なんだかしーんとした「お店」の中で、
「……キャー!」
突然、ミーコの歓声が弾けた。
「翠君、王子様みたい!」
コーセーの隣で嬉しそうに叫ぶミーコと、
「……マジか」
アタシのことを抱っこしたまま、なぜか肩を落としてるコーセー。
あらら。どうしたのかしらね? いったい。
ミーコとコーセーの様子が、特に、なんだかがっくりしてる感じのコーセーのことが気になりながらも。
ゆっくり顔を上げたスイのぴかぴかのお顔を、ぼんやりとアタシは眺めた。
オージサマって、何のことかわかんないけど。
きっと、いいものなのね。とっても。
だってなんだか、ふわーんってするもの。頭の中が。
ようやく気を取り直すと、
「……なかなか、悪くなかったわ。さっきの」
スイに向かってアタシは言った。
妙齢のお姉さん猫としての、威厳よ。威厳。
スイがアタシを見返して、
「――さっきのあれが王子様なら」
いたずらっぽく、くすっと笑う。
「君はお姫様だね。フーちゃん」
名残惜しそうにアタシの前足をコーセーの腕の上に戻したスイが、
「これからもよろしくね、お姫様」
アタシを見つめて、ふんわり微笑んだ。
「……仕方ないわね」
ちょっとまばたきして軽くあごを引くと、アタシはこたえる。
知ってるわ。「よろしく」っていうのは、あれよね。仲良しのことよね。
「これからも、ヨロシクしてあげるわ」
スイだけじゃなく、ミーコもコーセーも、あんたたちみんな。もちろん、ママさんとパパさん、それにシュージもね。
「あらー、仲良くお話してるのねー。翠君とフーちゃん」
そこで、弾んだ声でママさんが言って、まわりのみんながほわんと笑顔になった。
(うふふ、いい感じ)
みんながにこにこしてて、アタシは嬉しくなる。
猫って、そういう生き物……ううん、違うわね。
コーセーの腕の中で、アタシはぱたんとしっぽを振った。
――そういう猫なのよ。
アタシって。
【 第Ⅱ部 秘密の怪盗ブルー 了 】
お読みいただき、ありがとうございました!
このあとは、
★ブルー史上最高に(最悪に?)ひどい目に遭う恒星
★ブルーVS真山、直接対決
★翠の無自覚スマイルによる、新たな被害者
などなどの、第Ⅲ部・完結編『怪盗ブルーは永遠に』に続きます。 ⇒⇒⇒
よろしければ、ぜひまたおつきあいください!




