表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/215

【Case1】2.小型で非常に勢力の強い○○○○ (5)

「はあああ!? ○クザの組長のひとり娘だとお?」


「えへへー」


 大声を出す俺に、ちびっこが普通に笑い返す。向かいの席では、相変わらず無表情の翠。

 信じたくもない話だが。家出JK・仙道葵は、横浜にある弱小暴力団「仙道組」組長のひとり娘だった。


「横浜っていっても、はずれにあるちっちゃい組だよ? 港の方じゃなくて」


 途中で翠が出したクッキーをもぐもぐ食べながら、JKが呑気な声で言う。そこじゃねーし、問題は。


 四十過ぎてできた娘を溺愛するこいつの父親は、組と愛娘の安定した将来のためにと、前々から政略結婚の手はずを整えていたそうで。この十月で十六歳になったこいつは、その結婚が嫌で家を飛び出したらしい。


「パパもママも、あたしのためって思ってるのはわかるけど。ぜんっぜん話聞いてくれないんだもん。そろそろ、十六過ぎたからはい結婚とか言って、相手のうち放り込まれそうで、逃げなきゃヤバいと思って」


 なにそれ、ほんとに平成の話? 

 人権とかいろいろアレすぎる話に、俺はおののく。

 そりゃ、親にしてみりゃ、そういう家に生まれた以上、娘が将来跡目争いとかに巻き込まれないよう、しっかりした相手に守らせたいのかもしんねーけど。


「あ、でもさ。おまえ、めちゃめちゃ運いいんだろ?」


 ふと思い出して俺は言った。


「そのまま家いても、そのうち結婚しないですむ展開になったんじゃね?」


「それがさあ、ダメな気がしたんだよねー」


 輪っか型のクッキーをかじりながら、泥棒娘が腕を組む。

 すっかりくつろいでるけどおまえ、財布掏られたの忘れてねーからな、俺。いくら無傷でも、あれはナシだわ。


 向かいの翠は相変わらず、黙ったまま俺らの話を聞いている。


「運っていうかさ、結局勘がいいんだよねあたし。それでトラブル回避してこれたみたいな。その勘でびしびし伝わってくんだけど、ヤバそうなんだって、相手の男。三十過ぎの、パパの関連会社の社長の息子なんだけど、ロリなだけじゃなくてなかなかのストーカー気質な感じでさ。余裕で監禁とかされそうで」


 うお、こええ……。

 ふたたび慄く俺を前に、ちっこいスリ女はにこっと笑った。


「だから東京来てみたんだー。よさそうな電車乗ったり降りたりしてたら、ちょうど怪盗ブルーに会えるなんて、やっぱあたし持ってるー」


「うるせーわ。おまえなんか会ったんじゃなくて、腹すかしてフラフラしてたの拾っただけだろ。恩を仇で返しやがって」


 あまりにも屈託なく言われて、腹が立った俺は思いきり突き放す。


「えー、なにそれひどい」


 スリ女がふくれた。


「会ったばっかでおまえとか呼ぶのありえなくない? そこは『葵ちゃん』でしょ」


「そっちかよ! 拾ったくだりはスルーかよ!」


「だよねだよね。こんな美少女に、野良猫みたいな言い方とか」


「うっせーわ。おまえなんか野良猫レベルだわ。野良猫のミーコだわ」


「えーなにそれ、かわいくない? 『ミーコ』」


「いいのかよ!」


 ほっとくと永遠にくだらないやりとりを続けそうだった俺たちに、そのときようやく翠が口を挟んだ。


「……スリと勘、それだけでここに辿り着いたわけか。たいしたものだね、確かに」


 出ました、腹ん中の見えない王子様スマイル。

 俺は内心拍手喝采する。

 そうそう、にっこりばっさり言っちゃってくださいよ大家さん。このずうずうしい家出娘に。


「それで君は、これからどうしたいの? ミーコちゃん」


 優しげに続けた翠に、


(……は?)


 俺は一瞬、頭の中が“無”になった。


 ちょっと。翠おまえ、大家さん? なに言い出すのいったい?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキングに参加しています。クリックしていただけたら嬉しいです(ぺこり)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ