★おまけ★ 2.昼の猫は眠い (1)
みんながお仕事に行ったあと、アタシはまた窓からお外をのぞいたり、オコタの上のオミカンが入ったかごをひっくり返してやったり(あの匂いが、うーってなるからやなのよねー。オミカンって)、ひと休みしてお水を飲んだりした。
そのあとまた、ちょっとうとうとして。
まわりがにぎやかになって目が覚めたら、みんながおうちに帰ってきたとこだった。
「んー、お腹いっぱい」
ママさんが、ぽんぽんってお腹を叩く。下の「お店」で、「まかない」っていうのを食べてきたんですって。
何なのかしらねー? マカナイって。アタシは朝と夜のごはんしか食べないから、よくわかんないわ。あ、あと、おやつね。
みんなはいつも、昼間にお仕事から帰ってくると、夜のお仕事までちょっとだけお休みするの。
パパさんとママさんは、お昼寝したり、テレビを観たり。あ、ママさんはお出かけすることもあるわね。「スポーツクラブ」とか。
シュージは、いろいろなのよね。最近は、自分のお部屋でなんかしてることが多いみたい。……それってやっぱ、シュギョーなのかしらね?
ちょっと興味がわいてきたアタシは、階段を登ってシュージのお部屋に突撃することにした。
朝とは違ってドアが閉まってたから、
「ちょっとー、シュージったらー。開けなさいよー」
廊下に座って、おっきい声で文句を言う。
「あれ? フーちゃん?」
慌てた顔でドアを開けるシュージ。
そうよ。アタシよ。
わかればいいのよ、わかれば。
「遊びに来たの? フーちゃん」
そんなとぼけたことを言いながら、アタシをお部屋に入れたシュージが窓のそばの机に戻っていく。
やーね、そんなわけないじゃない。
「なに言ってんのよ」
アタシはひらりとその机に飛び乗ると、「ご本」やなんやかやには乗らないように、しっぽを身体に巻きつけて行儀よく座った。
「遊びなんかじゃないわ。アンタのシュギョーの監督しに来たのよ、アタシ」
びしっとシュージに言って聞かせる。
シュージったら、まったく、世話が焼けるんだから。
(ふむふむ。これは、何のシュギョーかしらね?)
早速アタシは、その辺にあった「ご本」の匂いを嗅いでみた。
……なのに、シュージったら。
せっかくお椅子に座ったっていうのに、シュギョーの続きもしないで、
「はいフーちゃん。ハイタッチ」
嬉しそうに、パパさんみたくアタシの顔の前に手を差し出してくるのよ。
あったまきちゃう。
デレッとしたその顔に、
「頭が高いのよ」
アタシは、渾身の猫パンチをお見舞いしてやったわ。
「あ、やられた~」
シュージが、てへへと頭をかく。
いいから、さっさとシュギョーに戻んなさいよ。
遊ぶんじゃなくて監督しにきたのよ、アタシは。アンタのこと。
アタシに怒られて、ようやく「ご本」を開いてシュギョーに戻るシュージ。
そうそう、その調子よ。励むがいいわ、若者よ。
(……でもこの子、やっぱちょっと心配なのよねー)
暇つぶしにお顔を洗いながら、アタシはちろっと横目でシュージを眺める。
今だってほら、シュギョーを始めたはいいけど、
「そうだよなー。ミーコさんとの、幸せな未来のために! フーちゃんと遊んでないで、勉強勉強!」
とかなんとか言っちゃって。
なんか、「ご本」に「ペン」でしゅーってしたり、お目目つむってぶつぶつ言ったりしてるけど。
ほんとに大丈夫なのかしら? この子。
なんかこう、勘違いとか、早とちりとかしちゃってんじゃないかしら? いつもみたく。
アタシは机の上で首を傾げる。
ミーコっていうのは、あれよね? コーセーたちの仲間で、ときどき下の「お店」に来る、黒猫みたいなぴかぴかした目の女の子のことよね?
子猫なのよねー、あの子もまだ。まあ、同じ子猫でも、シュージに比べたらしゃきしゃきしてて、アタシは気にいってるんだけど。
でも、あの子とシュージの幸せな「ミライ」って、どういうことかしら?
シュージったら、ミーコの前だとやたらそわそわしちゃってるけど、あの子の方では全然そういうのないみたいだし。
……そういえば、前にちょっとだけ、あのミーコたちのおうちにお泊りしたことがあったのよねー、アタシ。
思い出しちゃったわ。さっきの話の続き。
アタシは顔を洗う前足を止めて、ちょっと遠い目になる。




