★おまけ★ 1.朝の猫は早い (7)
そこいくと、もっとちっちゃい「幼稚園児」とか「保育園児」なんかは案外ダメなのよねー。
そりゃ、大きさや動きに関してなら、ショーガクセーよりずっと狙いやすいけど。エンジのあの子たちには、大抵親がくっついてるんだもの。もしも狩ったら、あっという間に返り討ちにされちゃうわ。
どんな生き物でもそうだけど、子連れの母親って侮れないのよねー。
あ、エンジはたまに、父親と一緒のこともあるわね。猫には父親っていないから、あれって不思議な感じ。まあ、アタシの場合、母猫の記憶もほとんどないんだけどね。
出窓からの眺めを堪能したアタシは、すとんと床に降りると、今度は「おこた」でテレビを観てるパパさんのお膝に登った。
人間の朝ごはんがすんだら、パパさんとママさんはちょっとだけゆっくりして、そのあと「買い出し」に出かけるの。帰ってきたら、「お昼休み」までお仕事なんですって。
つるつるの頭のパパさんは、大きくてなかなか強そう。このおうちの下にある「お店」の「店長さん」で、ママさんよりいっぱい大人なんですって。
……でも、ちょろいのよねー。パパさん。
「おー、来たのかフーちゃん」
いつもは眉毛の間にしわ寄せたお顔で、お話だってあんまりしないのに。アタシのお顔を見ると、お目目がでれーってなるのよね、パパさん。
「ほらフーちゃん、ハイタッチ」
おっきな手のひらを向けられて、
(はいはい)
アタシはその手のひらに、たしっと前足でタッチしてあげた。
「おー、さすがフーちゃん。上手でちゅねー」
パパさんが、早速○ゅーるを開けてくれる。
そうそう、そう来なくっちゃ。
夢中で○ゅーるをむさぼるアタシの背後で、
「もー。ちょろいんだから、あなたったら」
ママさんが、お洗濯ものを干しながらあきれた声を出した。
テレビのそばの「ベランダ」には、お洗濯ものを干すちっちゃいお屋根がついてるのよね。雨が降っても濡れないから、たまにスズメやハトが遊びに来るの。
アタシも行ってみたいなって思って、ママさんがベランダ出るときに、するっと一緒に出ようとしたこともあるんだけど。
危ないからやめてちょうだいって、悲しそうなお顔でママさんに諭されてやめたの。
「フーちゃんになにかあったら、あたしたちどうにかなっちゃうわ」なんですって。
そんなこと言われたら、やめないわけにはいかないじゃないねー。大人猫としては。
「まだ十一月なのに、おこたって。フーちゃんのために出したようなものよねえ」
にやにやしてるママさんに、
「……なんだよ。みんな、好きだろ。炬燵」
小声で言うパパさん。急に下向いちゃって、どうしたのかしらね?
パパさんの前のテレビに映ってるのは、「天気予報」とか「ニュース」とか、つまんないやつばっか。
(前の猫ちゃんのやつ、またやらないかしらねー)
以前みんなで観た、素晴らしいテレビのことをアタシは思い出す。
なんか、いろんなとこのいろんな猫ちゃんが出るテレビだったのよねー。
イワロクさんっていうおじいさんが作ったテレビなんですって。
途中で、そのおじいさんの声も入ってたわ。優しーい声で猫ちゃんのお名前呼ぶと、呼ばれた猫ちゃんがすすすっておじいさんのそばに行くの。きっと、お友達なのね。イワロクさんの。
「岩六さんは、有名な動物写真家さんなんだよ、フーちゃん」
そんなテレビを観ながら、パパさんはご機嫌なお顔で言ったけど。シャシンカって、何なのかしら?
「あらやだ、あなた。写真家なんて言ったって、わかんないわよフーちゃんには」
パパさんの隣から、ママさんが鋭く指摘した。
さすがママさん。
感心して、アタシはぱたんとしっぽを振った。
そこでママさんはアタシに、
「写真家っていうのはね、フーちゃん。お写真撮るお仕事の人のことよ」
自信たっぷりに言ってくれたんだけど……。
(だから、何なのよー? その、オシャシンって?)
アタシは半目になって、ママさんとパパさんをじとりと見つめてやったわ。
まったく、そういうとこなのよねー。人間って。
(……って、あらっ?)
ふと気づいて、アタシは目をぱちくりさせた。
……そんなこと思い出してるうちに、パパさんのお膝の上でまたうとうとしちゃってたみたい。アタシったら。
ほんと、猫ってそういう生き物なのよねー。




