★おまけ★ 1.朝の猫は早い (5)
そんなアタシを見てられなくなったのか、
「……なにやってんだい? アンタ」
わざわざ声を掛けてくれたのが、あの辺一帯を仕切ってたミケ姉さんだった。
姉さんはときどきバーチャンちのお庭にも来てたから、顔見知りではあったのよね。アタシたち。
「飼い猫なんだろ? アンタ。悪いこた言わない。さっさと家に帰んな。今夜はこのあと、もっと冷えてくるよ」
しゅたっとそばの塀から飛び降りてそう言ってくれた姉さんに、しょんぼり耳を倒してアタシはこたえた。
「……そういうわけには、いかないんです」
バーチャンの元から自立しなくちゃ、ってなった経緯をアタシが話すと、姉さんは思案顔で首を傾げた。
「ふーん……あんまり、意地張ることもないと思うけどねえ。まあ、アンタの気がすむまでやったらいいさ」
長い尻尾をひゅっと振って、塀に飛び乗った姉さんが、
「アタシんとこの姉さんなら、面倒みてくれると思うけど。来るかい?」
そう言って歩き出したのに、もちろんアタシはついていったわ。
ミケ姉さんには、ごはんを出してくれるおうちや、天気の悪いときに中にいれてくれるおうちがあったの。その中に、バーチャンちのすぐそばにある「アパート」の、モモカさんのおうちがあったのよ。
「あらー、きれいな白猫ちゃん」
ミケ姉さんの後ろからそろっと顔を出したアタシに、モモカさんは優しく声を掛けてくれて。
アタシたちにお夕飯を出してくれたあと、「いい子にしててね」ってモモカさんは出かけていって、朝まで帰ってこなかった。お仕事なんですって。
夜に、寝ないでお仕事する人間っているのねー。初めて知ったわ。
そのかわり、次の日ビョーインみたいな匂いをつけて帰ってきたモモカさんは、ミケ姉さんとアタシに遅めの朝ごはんをくれたあと、「缶チューハイ」っていうのを飲んでぐうぐう寝てたっけ。
寝る前に、
「うふふ。うちの子になるう?」
って、アタシの頭をなでなでしてくれて。
そのおうちでご厄介になりながら、アタシはじっくり考えてみようとしたの。
モモカさんの飼い猫になるか、ミケ姉さんみたく野良としてやっていくか、それとも……。
器の大きいミケ姉さんは、アタシのことを急かしたりはしなかったけど、
「外に出たって、いいことばっかじゃないよ」
って、それだけはビシッと言われたわ。
「こう寒いと虫はいないし、ネズミや鳥もなかなか狩れやしない。人間だって、ごはんをくれる人ばっかじゃないよ? それどころか、猫をいじめる変態もいるし、車やバイクにも気をつけなきゃなんない。おまけにこの時期、オス猫にみつかるとなかなか厄介なんだよ。避妊手術済みのアンタにゃ、ピンとこないだろうけどね」
なるほどねー。
それに、野良になるなら、自分の縄張りを持たなきゃなんないのよねえ。
あれもこれも、できるかしら?
うーんって、アタシは考えこんじゃったわ。
そして、バーチャンちを出た日の、次の次の日。
その日は朝からよく晴れて、ミケ姉さんは早速パトロールに出掛けていった。
アタシもお天気に誘われて、外に出て近所の木に登ってみたはいいものの、
(……この先、どうしようかしらー)
せっかくの景色もあんまり楽しむ気分になれず、ぼんやり考えてたんだけど。
ちょうどそこへ、あの子たちがやって来たのよねー。




