★おまけ★ 1.朝の猫は早い (3)
ジューイっていうのはね、「お医者さん」なのよ。変な匂いのするおよそのおうちで、いろんな動物に、なんかする人なのよ。
あのビョーインっていうおうち、いっつもいろんな動物が「イヤー!」とか「帰るー!」とか騒いでる声がするから、アタシもほんとはあんまり行きたくないけど。
……困ったことに、イケメンで、抱っこが超上手なのよねー、フクモト先生。あと、お姉さんたちも優しいのよ、あのおうち。
そりゃまあ、お口あーんとかお腹もしもしとか、最悪お注射されちゃうことだってあるんだけど。
昔、初めて先生に会ったときにね?
「きれいな白猫ちゃんですね」
って言われたのよ。アタシ。
「金色の瞳の、お姫様だね」
って。
それもあの、低くて優しーい声でよ? キュンとしちゃう。
「そうでしょ? 先生」
って、バーチャンは笑ってたっけ。
バーチャンっていうのは、アタシが小さいころから育ててくれたお母さんのこと。といっても、お母さん猫とは別の、人間のお母さんね。
それにしても、んもー、困っちゃうわよね、フクモト先生ったら。正直なんだから。
あれ以来、アタシは先生の大ファン。今のおうちからだと、ビョーインはちょっと遠くなっちゃったけど、たまに行くときはお口あーんもお腹もしもしも、いい子で頑張っちゃうんだから。
って、あら、話がそれちゃったわ。
いけないいけない。猫って、話がすぐ迷子になるのよねー。
そんなわけで、ニジューハッサイって何のことかわかんないけど、自分がシュージよりは大人猫な気がするのよ、アタシ。
なんかねー。この子って、身体は大きいけど、中身がまだ子猫なのよね。
オダイドコで人間の朝ごはんを作り始めたシュージの背中をよじ登って、肩の上でシュギョーを見守りながらアタシは思う。
やることなすこと、目が離せないんだから。
じゃーじゃーお水を出しながら「お野菜」をこすって、ぱりぱりとかシュッシュッて音をたてるシュージ。それをトントンって「包丁」で叩くと……あっ、「お野菜」が小さくなってる! すごいわねー、ホーチョーって。
「お鍋」がくつくついいだした脇で、
「野菜スープって、奥が深いわー……」
「お玉」を片手にひとりごと言ってるシュージ。
(あいかわらず、よくわかんないこと言う子ねー)
シュギョーを見るのに飽きたアタシはシュージの肩から降りると、みんながごはんを食べるときのお椅子にぴょんと乗る。ママさんが作ってくれた、ちっちゃい座布団が敷かれたやつね。
アタシ用のお椅子なんですって、これ。といっても、アタシはここでごはんは食べないけども。
お椅子の上で落ち着いたところで、アタシはお顔を洗う。高いし、いい感じに狭いし、座布団が気持ちいいのよね、ここ。
人間のみんなの朝ごはん作るのは、シュージのお仕事。これもシュギョーなんですって。
「毎日、昼夜とまかないでお米食べてるから、朝くらいパンがいいわ」
なんですってよ。ママさんによると。
パンっていうのは、あれね。いつも、パパさんママさんが起きてきてから、シュージが「チーン!」って鳴らして、「あちあち」ってする面白いやつね。




