★おまけ★ 1.朝の猫は早い (2)
と、
「……んー、ミーコしゃ」
お布団の中でもぞっと動いたシュージが、
「そんな……積極、的……」
むにゃむにゃ言いながら手を伸ばしてきたと思ったら、いきなりアタシのことを、思いっきり抱き締めようとしたもんだから。
「フギャッ!」
慌ててアタシは、お布団から飛び出した。
「ちょっとー! びっくりさせないでよね、もー!」
枕元でシャーシャー文句を言うアタシにまるで気づかず、あごの下までお布団にくるまって、気持ちよさそうにすやすや眠ってるシュージ。
(なんなのよ! びっくりして、背中の毛がびよよってしちゃったじゃないのよ!)
まだどきどきしてる胸を抱えて毛づくろいしながら、アタシは顔をしかめる。
(ったく。手のかかる子ねー、毎朝毎朝)
乱れた毛を舐め終えて身も心も整えると、アタシはわざとお布団の真ん中を踏んづけて、シュージの足元まで移動した。途中でどこか踏んだときに変な声がしたけど、知るもんですか。
(……よし)
進行方向を見定めて、アタシは軽く助走をつける。
思いきりよく踏み切って、天井高く華麗に跳躍すると、
(ていっ!)
アタシは全体重を掛けて、お布団から出ていたシュージの顔面に降り立った。
「……っあ! 痛っ、て!」
途端に響き渡る、シュージの悲鳴。
あ、ツメは立てなかったわよ? さすがに。
「……勘弁してよー。まだ四時半だよ、フーちゃん」
深くうなだれたまま、ぼっさぼさの毛並みでようやくお布団から這い出てきたシュージに、
「お・は・よ・う」
アタシは優雅に首を傾げて、朝の挨拶ってものを教えてやる。
「……おはよう、フーちゃん」
小さな目をしょぼしょぼさせながら、アタシの頭を撫でるシュージ。
ふむふむ。なかなか感心な態度ね。
けど今、それどころじゃないのよ。
その手をあっさり振り払うと、アタシはベッドから飛び降りる。
ベッドの上のシュージを振り向き、
「さ、行くわよ」
ドアに向かってあごをしゃくると、アタシはぴんとしっぽを立てた。
さっさとついてらっしゃい。
朝ごはんの時間よ。アタシの。
廊下の端っこにある階段を降りて、ちょっと曲がったとこにある「お台所」。なんでも、この辺のことを「二階」っていうらしいわ。
「フーちゃんはいいなあ。上げ膳据え膳で」
オダイドコの床にアタシの朝ごはんを用意したシュージが、ふあー、ってあくびしたあと、ぶつぶつひとりごとを言った。
ごはんのお皿に入ってるのは、カリカリの上に猫缶のしっとりしたのをちょっとだけ乗せたやつ。水入れには、もちろん新しいお水。
(なあに言ってんのよ、若造の分際で)
ようやくありついた朝ごはんに取りかかりながら、アタシは「ケッ」とシュージにガンを飛ばす。
シュージったら、あんたまだ「修行中」なんでしょ? ママさんたちによく言われてるじゃない。
知ってるわよ。シュギョーっていうのは、あれでしょ? 子どもが、大人になるためのやつ。
え? アタシ?
アタシはもう、立派な大人の猫よ。まだ若猫だけど、シュージよりはだいぶ大人なんじゃないかしら。
「この子は三歳だから、人間に換算するとおよそ二十八歳。来年の春、四歳になったら三十二歳相当だね」
この間、ジューイのフクモト先生はママさんにそう言ってたわ。




