【Case1】2.小型で非常に勢力の強い○○○○ (4)
いや、翠よ。ちっこいけどやべーやつだぞ、こいつ。
止めようとする俺にかまわず、
「ありがとうございまーす」
「あ、おい」
スリ娘はするりと家にあがりこんだ。
(――あーもう、知らねー)
ふてくされた俺が部屋に入ったときにはもう、やつはちゃっかりテーブルについて、翠と挨拶なんかしてて。
「仙道、葵さん?」
翠が、きれいな形の目をちょっと見開いたあと、
「……いい名前だね」
ふわっと笑って、飲み物を取りにキッチンへと消えた。
長方形のテーブルの長い辺で向かい合う、いつもの翠と俺の席。それら二つと、その間の短い辺(いわゆる「お誕生日席」)に座ったJKの前に、温かいココアのカップが置かれる。
俺は音を立てて自分の椅子に座ると、
「……いらっしゃいませ、ドロボーさん」
招かれざる客に、無表情に声をかけた。
「ありがと、センパイ」
俺の嫌味に動じず、泥棒JKがさらりとこたえる。
え? センパイ?
「……?」
言われた言葉の意味がわからず、無言で見返した俺に、
「あのさあ、お兄さん、えーと恒星君だっけ? あと、そっちの翠君も」
俺と翠を代わる代わる指差して、JKがにこやかに告げた。
「あれでしょ? ふたり、怪盗ブルーの一味なんでしょ?」
――はあ?!
「……っ、おま、急になに言って」
突然すぎて言葉に詰まった俺に、
「あー、ほらまたあ」
嬉しそうに泥棒娘が笑う。
「お兄さんさ、めっちゃ目が泳ぐんだよねー、うしろめたいとき。さっきのおそば屋さんでも、怪盗ブルーの話になったら急に様子が変で」
やべ。それ、昔彼女に言われたことあったわ。嘘つくと目が泳ぐってやつ。
ひそかな弱点まで指摘されて、激しく動揺しながらも、
(――や、だとしてもよ? 何なの急にこいつ)
なんとか気を取り直そうと、俺は必死で頭を巡らせる。
(どっからバレた? 「怪盗」のこと)
そんな俺に構わず、
「見た目、二人とも犯人の特徴とばっちり合ってるし。てか一番の理由は、あたしの勘?」
たたみかけてくるJK。
こんなとき頼りになりそうな翠はといえば、俺の正面の席で、表情の読めない顔で黙ってココアを飲んでいるだけ。
泥棒娘が得意げに続けた。
「あとさあ、あれも変だと思ったんだ。『あいつら』って言ってたよね、お兄さん。怪盗ブルーのこと」
意外なことを言い出されて、俺は再びぎょっとする。
え、待って? 何の話?
「それまであたし、ブルーって一人のつもりで話してて。ネットでも『怪盗』としか言ってないし。でも、お兄さんが普通に複数形で言ったとき、言われてみればそうだなって思って。協力者いるよねって」
……うーわ。マジか。
「や、えーと……え? そんな話したっけ?」
もう、とぼけるしかない。
時間を稼ごうと適当に相槌をうったものの、
「ほらまたー。目が泳ぎまくりー」
またもや、笑いながら指を差され。
(……もー、無理)
ついに俺は、撃沈した。
……もーいい。
どうせ、この場で認めたって証拠なんてないんだし。こんな家出JKが「勘」とか言ったところで、警察だって動かねーだろ。
しかし、確かにすごいわ、こいつの特技。結局、辿り着いちゃってんじゃん。怪盗ブルー。
肩を落とした俺に、
「ごめんごめん。そんな、いじめるつもりじゃないって、お兄さん」
秘密は守るし、とか言いながら、泥棒娘が顔の前で手を振る。
それが、軽く言ってるように見えるけど嘘じゃないって、声でわかるのはいいんだけど。
「ということで」
ふと、JKが笑うのをやめた。
「今度はちょっと、あたしの話聞いてもらってもいいかなあ?」
……そう言って、その泥棒娘が語り始めた内容は。
俺が想像していた以上に、ろくでもなかった。