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【Case3】2.ショータイム (4)

 客たちの避難が終わってまもなく、金のバラのケースに充満していた白煙は自然に消えた。


 百貨店の通報により駆けつけた警官たちが、念のため特殊な装備でブースに入り、慎重にガラスケースに近づいていく。


「……おい、バラが!」

「なんだこれは?!」


 展示ケースを前にした警官たちが、驚きのあまり用心するのも忘れ、口々に声をあげた。


 ケースの中に飾られていた、真山百貨店百周年記念に作られた純金製のバラの像。謎の白煙が消えたのと時を同じくして、そのバラの像までもが忽然と姿を消している。


 消えたバラにかわって、展示ケースの中には小さな白いカードが置かれていた。


 ――「真山百貨店創立百周年記念の純金のバラをいただきました。――怪盗ブルー」


 手のひらほどの大きさの、バラの模様が型押しされたカードには、奪われた金のバラを想起させるような金色の塗料がところどころについていた。




「あーあ。久しぶりのデパートだし、服とかデパコスも見たかったなー」


「そんな金、持ってきてねーわ」


 消えた金のバラのかわりに怪盗ブルーのカードがみつかり、真山百貨店が上を下への大騒ぎになっていた、ちょうどそのころ。ミーコと俺は、のんびりと駅への道を歩いていた。


 ガラスケースに展示され白煙と共に消え失せた、純金製のバラの像。あれは、あらかじめ怪盗ブルー――俺ら三人の手によってすり替えられた、偽物だった。


 すり替えたのは、昨日の夜。純金製のバラを、真山家の金庫から真山百貨店に搬入したときだ。


 デパートのスタッフに紛れた俺らは、ミーコのスリの腕を存分に活かして、真山家特製・純金のバラを、翠が用意していた偽物にすり替えたのだった。


「でも、翠君の情報網ってほんと謎だよねー。できたばっかなんでしょ? あの偽物の材料」


 ミーコの言葉に、俺もうなずく。


 翠の説明を聞いても、細かい部分はややこしくて理解できなかったけど。

 ミーコの言った通り、あの偽のバラを作るのに使ったのは、世間にはまだ発表されていない開発中の化学物質だという。


 明るいところに一定以上の時間置くと、溶けて人体には無害な白い気体を出すという、正直何のために開発したのかわかんない物質。ていうか、そんなマニアックな研究内容までおさえてるとか、マジ怖いんですけどあいつの情報網。


 つい最近、真山グループ系列の企業の研究所で実験に成功したばかりだというその化学物質で、翠はフェイクのバラを作り、それを金色に塗装したらしい。中に、ブルーのメッセージカードを仕込んで。


 あの展示ブースで翠のマジックの映像を眺めながら、ケースに入った偽のバラを観察していた俺は、時間の経過によりバラが溶け始め白煙が出てきたところで、離れた場所でカードマジックを行っていた翠にスマホで連絡。それを受けた翠が、手元に金のバラを移動させたような演出でマジックの中継を終えた。


 その後、客たちがガラスケースを振り返ったときには、白煙に包まれて既にケースの中身は見えず、煙が消えると中にあったはずのバラの像は姿を消していて。残されたブルーのメッセージカードと相まって、まるでブルーがマジックで金のバラを奪い去ったかのような印象を与えたわけだ。


「それにしても、久々にテンション上がったね!」


 歩きながら、ミーコが笑顔で俺を見上げる。


「純金なんでしょ? あのバラ。あー、いかにもお宝って感じー!」


「ちょ、おまえ、でかいって声が」


 俺は焦ってまわりを見回す。


 幸い、土曜日の銀座を歩く人々はそれぞれの会話に忙しく、バカップルのどうでもよさそうな会話に気をとめる人はいないようだ。


 そのあと、駅の人ごみに紛れて、家とは反対方向の電車に車両を別にして乗ったミーコと俺は、数駅先で下車した。


 タイミングをずらして別々に改札を通ると、それぞれ、降りた駅のそばにある別のファーストフード店に入る。


 店のトイレで変装を解いた俺たちは、しばらくして、待ち合わせていたコインパーキングで落ち合うと、停めていた車で翠の待つ家に戻ったのだった。





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