【Case3】2.ショータイム (1)
「……すげーな。暇かよみんな」
翌週の土曜日。時刻は、朝の十時を過ぎたばかり。
秋晴れの空の下、目の前に広がる衝撃ってほどでもないけど違和感ありまくりの、てか違和感しかない光景に、思わず俺はつぶやいていた。
(……もしかしたら、これが通常なのかもしんねーけど。俺が知らないだけで)
思いついて、俺はちょっと考え直す。
考えてみれば、今まで来たことなかったもんな。開店直後のデパートなんて。
「なにこれ!」
幸い、とでもいうか、この場でびっくりしてんのは俺だけじゃなかった。
「人出、やばー」
隣で、でかい目をみはって俺を見上げるミーコ。
「やっぱ今日、変装してきてよかったね、こーちん」
「……それなー」
『真山百貨店本店 創業百周年記念・特別セール』
最先端の商業施設や有名店の立ち並ぶ銀座の一角で、老舗百貨店のせっかくの建築デザインを覆い隠すように、センスもなにもあったもんじゃないって感じの派手な垂れ幕がたなびく。
この前翠の読んでた経済誌にも載ってた、真山百貨店の創業百周年。今日は、その記念セールの初日だ。
銀座の大通りに面した正面入口では、真っ赤なスーツを着たバイトの女の子たちがにこやかな笑顔で、大人の客には記念品を、お子様たちには風船を配っている。
俺らの目の前の道路を埋めつくしている人の群れ。地下鉄の出口や道路のあちこちから続々と湧き出した客たちが、年季の入った建物に吸い込まれていく。その主成分は、やたら元気そうな中高年だ。
有名デパートの記念セール初日ともなれば、情報番組で取り上げられたりして、ミーコの父親の組織の目にとまる可能性もある。翠の指示で、俺らはデート中のカップルに見えるよう変装していた。
茶色いフレームの伊達眼鏡にベージュの巻き髪ウィッグを付け、ピンクベージュのかわいい系ワンピを着たミーコと、ジャケットに銀縁眼鏡で短髪、ピアスなしの俺。互いに普段とはかけ離れた姿で、これなら万一知人に会っても気づかれる心配はない。
この間までのピンクのインナーカラーを切ったばっかで、珍しく自前の黒髪の俺なんて、普段からこの格好にしとけば好感度爆上がりしちゃいそうだけど、こればっかりはなー。
ふたり並んで入口で記念品を受け取ると、俺らは真山百貨店本店に入った。
途端に押し寄せてくる、ふあーっとした化粧品と香水の香り。
「――いらっしゃいませ」
「――いらっしゃいませ」
(そーそー、こういう感じだったわ。デパートって)
CAみたいな恰好のお姉さんたちが繰り出す、絶妙な間と人工的な声に囲まれて俺は思い出す。
正面入口を入ってすぐの場所には、おそらく家電売り場のイチ推し商品なのであろう、壁掛けタイプの大画面テレビが設置され、真山百貨店社長の挨拶がエンドレスで流されていた。
それぞれの目当てのセール会場へと急ぐ客の流れの中で、お年寄りが数名、わざわざ足を止めて画面を眺めている。
この前翠の読んでた電子記事でチラ見した、ザ・ビジネスマンって感じだったグループ総裁・真山晴臣とは違い、太めの身体を派手なスーツに包んだ愛想のいい真山百貨店社長は、いかにも客商売のプロって感じだ。
『なお、八階催事場にて、当百貨店の歴史を振り返る特別パネルと共に、創業百周年を記念して作られた純金のバラの像を展示しております』
これまたエンドレスで流れる館内放送を聞きながら、ミーコと俺はカップルらしく腕を組んでみたりしつつ、のんびりとエスカレーターに乗り込む。
催事場のある八階でエスカレーターを降りると、すぐ目の前に、四角い小部屋のような形をした創業百周年記念の展示ブースが設置されていた。エスカレーターを降りた客のほとんどが、そのブースに向かう。
フロアの反対側では、百周年記念のグッズの物販が行われているらしく、まだ開店したばかりなのに、そちらも既に賑わっている。
一階の正面入口にいたのと同じ、真っ赤なスーツを着た案内の女の子たちと、フロアのあちこちに立っている警備員たち。それを横目に、俺らは展示ブースに向かった。
純金製だというバラの像の警備の都合上か、展示ブースは四方を白い簡易壁に囲まれ、上部には天井……というか、蓋みたいな平らな屋根までついている。入口が狭いのは、一度に大勢の客が出入りできないようにするためだろう。
狭い入口の両脇にいる警備員に、さりげなく全身をチェックされるのを感じながら、ミーコと俺は次々にブースに入っていく他の客たちのあとに続いた。




