【Case2】4.好意は言葉より行動に出ちゃうタイプ (1)
「へー!」
話を聞き終えたミーコが、ダイニングテーブルにひじをついたまま、大きな目をまるくして翠を見上げた。
「すごいね。さすが翠君」
「ありがとう」
さらりとこたえて、翠が微笑む。
「そういえば、そんなこともあったなー」
ミーコの隣で首をひねった恒星が、
「よく覚えてんな、おまえ」
ティーカップを手に、あきれたように翠の顔を見た。
「ところで恒星」
恒星を見返した翠が、思いついたように言う。
「よかったら、俺にも教えてくれないか? スキップのやり方を」
「……へ?」
カップに口をつけかけた恒星が、目を見開く。
「スキップできないの? 翠君」
意外そうに声をあげたミーコに、
「そうなんだ。今まで、やってみる機会がなくて」
翠が優雅にうなずいた。
「あー……」
恒星がふたりから視線を外すと、なんともいえない表情で、こめかみだけピンク色の髪をわしわしとかき回す。
「えーと、あれだ」
ぽんと恒星が両手を合わせた。
「ケンケンすりゃいいんだよ。片足ずつ」
「……『ケンケン』?」
翠が不思議そうな顔になる。
「もしかして、翠君知らない? ケンケン」
ミーコの質問に、
「初めて聞いた」
翠がこくりとうなずいた。
「……帰国め」
口の中で小さくつぶやいた恒星が、
「あー、じゃあさ」
気を取り直して、椅子から立ち上がった。
「片足でこう……ホップ?」
恒星がその場で、右足で跳ねてみせる。
「で、次は反対でホップ、って」
左足に替えて跳ね、
「こう、交代でやりながら、前に進めば」
広い新堂家のリビングを、スキップしながらゆっくりと横切ってみせる恒星。
「なるほど」
それを見た翠が、フローリングの上で片足ずつ慎重に跳ねながら、
「こういうことかな?」
考え考え、恒星に続く。
高身長の男二人が真剣にスキップするというシュールさに、恥ずかしさで表情が“無”になった恒星は、
(なんで俺、こんなこと……)
内心、スキップの仕方なんてものを教え始めたことを激しく後悔しているものの、今さらやめるとは言い出せない。
その後ろで背筋を伸ばし腿を上げ、真顔でスキップする翠。
そして、見る間に上達していく翠を、嬉々としてスマートフォンで撮影するミーコ。
やがて、翠とミーコの気が済んで、恒星はようやく謎の苦行から解放された。
消耗しきった顔でテーブルに戻った恒星が、椅子に深く腰掛けて頬杖をつく。
「……でも、あのころはよかったよな。怪盗とかわけのわかんねーこと言わずに、清く正しい便利屋に徹してて」
「便利屋・ブルーオーシャン」の発足時を思い出して、拗ねたように目を眇めた恒星に、
「いや、萌芽はあったさ。怪盗の」
飽きもせずフライドポテトに手を伸ばしながら、翠がこたえた。
あっという間に松の木に登った身体能力と、懐中時計を扱った際の手先の器用さ。そして、第三者から見てもそっくりだと判明した、自分と瓜二つのプロポーション。
「あの日の仕事で、おまえはやはりブルーに必要な人材だと確信したよ、相棒」
にこやかに言う翠に、
「『あの日』って、沢田さんちのあの日?」
恒星が怪訝な顔になった。
「俺ら別に、なにも盗んでなくない?」
「……盗んださ」
得意げに言われ、揃って首を傾げた恒星とミーコに、
「沢田さんのハートという、宝物をね」
翠が華麗なウインクを決める。
「……」
恒星とミーコが、無言で翠から目をそらした。
――アイドル風のウインクも、さることながら。
偶然とはいえ、
(そこで出ちゃう? それ)
業界の大先輩とでも呼ぶべきか。怪盗界のレジェンド(の孫)の、代表作に出てくるあのフレーズ。




