【Case2】3.たまには「日常の謎」スタイルで (6)
「なー。なんであそこにあるって思ったの? あの時計」
走り出した車の助手席で、恒星がたずねた。
鮮やかな青い髪の下の切れ長の目が、翠の顔をのぞきこむ。
「……もしかして、カラス?」
双眼鏡を取り出して、最初から松の木の周辺にあたりをつけていた翠。
「そう、カラスだ」
ハンドルを握りながら、言葉少なに翠が答えた。
「……でも、あの時計、沢田さんが持ってたよな?」
助手席のシートに背中を預けて、恒星が首をひねる。
ずっと家の中にいた沢田さんの懐中時計が、なぜカラスに運ばれて巣のそばに?
「確かに、最初は沢田さんが持っていたけどね。家の外に出ていたんだよ。持ち主も気づかないうちに」
前を向いたまま、翠が楽しそうに口角を上げる。
「沢田さんが和人君に、カーディガンを貸してあげただろう? あのとき、ポケットに入れたままだったんだ。ご主人の懐中時計を」
「……あー!」
恒星が声をあげた。
ふたりに、ポケットから出したアメをくれた沢田さん。おそらく、上着のポケットにとりあえず物を入れる習慣のある彼女は、恒星が電池を替えた懐中時計を無意識にポケットに入れたまま、電球の取り換えに立ち会ったのだろう。
その後、和人君が外で遊ぶと言いに来たとき。上着を着たがらない彼に、咄嗟に沢田さんは自分のカーディガンをはおらせたのだ。ポケットに懐中時計が入ったカーディガンを。
「和人君がスキップしていたとき、はおったカーディガンの裾が、彼の脚にあたっていただろう?」
翠が続ける。
「口数は少ないが、和人君は頭のいい子だ。おばあさんの大切な懐中時計を蹴って壊すことのないよう、ポケットから時計を出して、あとでみつけやすいように、近くの石の上にでも置いていたんじゃないかな」
あの庭にいくつも敷かれていた、わざわざ九州から取り寄せたという大きな石。その上に、そうっと懐中時計を置く和人君。
その後まもなく、松の木にかけた巣のまわりをパトロールしていたカラスが、巣からそう遠くない石の上できらきら光っている懐中時計に気づく。
ぱくりとそれをくわえたカラスは、ついでにそばにいたちびっこの頭を一蹴りして、悠々と松の木へと戻っていく。
そのまま時計を巣に運ぼうとしたカラスだったが、案外重さのある時計はその途中でくちばしから落ちて、長い鎖が運良く巣の下にあった枝にひっかかった――。
「はー。なるほどねえ」
腕組みして翠の推理を聞いていた恒星が、ためいきをつく。
「カラスに襲われたあと、そばの石の上に置いていたはずの時計が消えていて、怖くなったんだろうな、和人君は。おばあさんの大切な時計を、なくしてしまったと」
ハンドルを握りながら、翠が苦笑した。
「カラスも、気が立っていたんだろう。俺たちみたいな、普段見かけない人間が庭に出入りしたせいで。本当によかったよ。鎖が枝にひっかかったおかげで、あの時計が割れずにすんで」




