表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/215

【Case2 全力スキップ作戦 ~アメちゃんが教えてくれる、いくつものこと~】 1.誠意は言葉より行動で示すタイプ (1)

「――ぶえーっくしょい!」


「……っわ!」


 恒星の派手なくしゃみに、一緒にテーブルを囲んでいたミーコが、椅子の上で飛び上がった。


「ちょーっとー! やめてよこーちん」


 フォークを片手にきゃんきゃん言われ、


わりわりい。んー、風邪じゃないっぽいんだけどな。喉とか平気だし」


 適当に謝った恒星が、脇を向いて派手な音を立てて鼻をかむ。

 そのあまりの音に、


「ちょ! うるっさ!」


 ミーコが、今度は手を叩いて爆笑した。


「……めんどくせーなおまえは。いちいち」


 ごみ箱にティッシュを投げ捨てた恒星が、眉間にしわを寄せる。


 長方形のダイニングテーブルの短い辺に座ったミーコを恒星と翠で挟み、いつものようにコの字型に座る三人。


 恒星の正面の席の翠は、これまたいつも通りどうでもいいことで騒ぐふたりを気にせず、無言でフライドポテトを食べている。


「えー? ひどくない? お誕生日様に向かって『めんどくせー』とか」


 ミーコが恒星に口をとがらせた。


「だから、祝ってやってんだろ」


 ぞんざいに言い放つ恒星に、


「なにそれ、言い方!」


 ミーコがキレる。


 都内西部にある新堂家の一階、南向きの広いリビング・ダイニング。

 シャンデリアの白い光の下、ダークブラウンのテーブルには、三人分のケーキの皿とティーカップが並べられている。


 生クリームと紅茶の華やかな香りに混じって漂う、ファストフード店を想起させる揚げ物の匂い。その出所は、広いテーブルの端に積まれたピザやチキンの残骸だ。そばには、鳴らしたあとのクラッカーの中身らしき、カラフルなテープや紙くずも散らばっている。


 十月十日、水曜日の夜。普段から「お誕生日席」を定位置にしているミーコだが、今日は正真正銘、本当の十七歳の誕生日だ。


 そのお誕生日様のたっての希望により、三人はミーコの誕生会を開いていた。

 といっても会の内容は、夕食後にクラッカーを鳴らしてケーキを食べるだけ。ちなみに夕食――バースデーディナーのメニューは、こちらもまたミーコの希望で、デリバリーのジャンクなピザとチキンである。


「……こーちんってさー、彼女いたことある?」


 じっとりと恒星を見据えながら、おもむろにミーコが切り出した。

 唐突なフリに、


「……一応。中学のとき」


 思わず、正直に答える恒星。


「……」


 ミーコが目尻の上がった大きな目を半分閉じると、恒星に向かってつんとあごを上げた。


「どうせあれでしょ? 向こうから告られて、二、三回デートしたら、『部活ばっかでつまんない』とか言われて、さくっとフラれたんでしょー?」


「……え? おまえ、なんで?」


 黒歴史を言い当てられた驚きに、とぼけるのを忘れ、口元に手をやる恒星。


 ふー、とためいきをついたミーコが、わざとらしく肩をすくめた。


「めーっちゃくちゃ、ありがちなやつじゃん。でも多分ほんとは、部活の話なんていいわけで、その子には物足りなかったんだろうねー、当時のこーちん。おこちゃますぎて。てか、女の子に『おまえ』呼びするのが既にありえないし」


 肩にかかったツインテールが、シャンデリアの光を受けてさらりと揺れる。


「な、おま、適当なこと言ってんなよ」


 一方的に過去をえぐられ、奥二重の目を見開いた恒星に、


「ほらまたー」


 ミーコの指摘が容赦なく飛んだ。


「っう……」


 詰まった恒星だったが、


「まあでも、あれだよね。こーちんも、椿さんと出会って、ちょっとは成長したかも?」


 憐れむような目で、直近の失恋に思いきり塩をすり込まれて、


「やかましーわ!」


 ついにキレる。


 そんなふたりの騒ぎに動じる様子もなく、


「……風邪ではないなら、いわゆる秋花粉というやつかな? 恒星のそのくしゃみ」


 ミーコの隣の席でポテトをつまみながら、翠が静かに口を挟んだ。


「それっぽい。春のスギのときよりマシだけど」


 こたえながら新しいティッシュを取った恒星が、音を立てて鼻をかむ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキングに参加しています。クリックしていただけたら嬉しいです(ぺこり)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ