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【Case1】2.小型で非常に勢力の強い○○○○ (1)

「……さみ」


 台風が近づいているらしい。

 十月にしては冷たい雨の降る午後、あったかいもんでも食うかと、俺は帰宅途中に、大学の最寄り駅構内にある立ち食いそば屋に向かっていた。都内有数のターミナル駅だけあって、この店のメニューは充実している。


 事件から三週間ほどたった今も、怪盗ブルーに関する報道は続いていた。世間ではどういうわけか、「平成のねずみ小僧」だの、「弱気を助け強きをくじく義賊」だの、ブルーの勝手なイメージがひとり歩きし始めているらしい。


「平成」とかひとくくりにされても、俺の生まれる前から、っていうか二十九年幅あるんですけど、「平成」。別に俺、貧しい家に小判配ったりとかもしてねーし。……まあ、世の中平和なんだろ。


 そばつゆのいい匂いに誘われるように店に入りかけたとき、自動ドアのそばに立ってる小柄な女の子の姿が目に入った。


 小学生……いや、中学生か。背は低いけど、顔つきがしっかりしてる。平日なのに私服っていうのはまあ、そういう学校かもしれないからいいとして。


 でかい荷物とビニール傘。冴えない顔色。

 ……もしやこれは。

 軽く眉をひそめた俺の気配に気づいたように、女の子がこっちを振り向いた。


「……平気?」


 ナンパと間違われないよう、距離をとりながら俺は声を掛ける。

 まあ、治安の悪さには定評のある俺の顔見て、ナンパとは思わないか。むしろ人買い? 今日の俺は、スカジャンに金髪、耳の縁にはツヤ消しステンレスの輪っかっていう、わかりやすいチンピラスタイルだ。


 猫みたいなでっかいつり目が、俺を見上げた。きれいな卵型の輪郭と凛々しい眉に、肩まであるまっすぐで真っ黒な髪。


 あーこれ、将来美人になるな。今はガリガリの髪ばっさばさで、目の下のクマもひどいけど。


「……」


 唇を結んだまま、こくんとうなずきかけた女の子が、思い直したようにぶんぶんと顔を横に振った。


「平気じゃ……ない?」


 思わず声に出して確認すると、


「……」


 泣きそうな顔でうなずく。


 ……独特だな、こいつ。


(やべえ。めんどくさ案件かもこれ)


 そう思いながらもつい、俺はいつもの世話焼き体質が発動してしまい。


「……どうした?」


 腰を落としてもう一度たずねると、返事の代わりに「ぐう」とでかい腹の音がして、ちびっこは顔を真っ赤にして、両手で腹を押さえた。




「一応言っとくけど、ナンパじゃねーからな」


 並んでそばを食いながら言うと、どんぶりに顔を突っ込む勢いで箸を動かしながら、猫目のちびっこがこくんとうなずく。


 さっきの腹の音のあと、「なんか食いもん……金ねえの?」って訊いたら、金はないわ訳ありだわって、絵に描いたようなこいつの困りっぷりが判明して。


 俺だって全然金あるわけじゃないけど、こんなとこで金に困ったJC放置したら、援交、いや、パパ活? とにかくそういうのまっしぐらだろうし。とりあえずそばくらいならと思って、連れてきた。嘘の音も、しなかったし。


「家出?」


 横目で様子をうかがいながら訊くと、ちびっこは箸を止めずにちらりとこっちを見て、またこくんとうなずく。

 それにしても、すげえ勢いだな。腹減らした野良猫みてーな食いっぷり。


 結局、コロッケそばに肉と半熟卵とちくわとかきあげ乗っけたやつ、あと鶏の唐揚げとポテトとお稲荷さん二皿食って、女の子はようやくまともに口をきくようになった。

 正直、結構な打撃よ? 俺の財布。


 ちっこいくせにマジよく食うな。ほんとはカレーも頼みたそうだったのを、極度の空腹時にカレーはやめとけ、って俺が止めたくらいだ。腹やばくなるからね、あれ。


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