2度目の別れ
「私、学校に戻るよ♪ それで、親ともう一度話してみる。その結果、離婚が決まったとしても・・・私は前を向いて生きていける。」
「本当に女って生き物は・・・尊敬するよ♪」
そこには以前の様な弱さはない。
生まれ変わったかのように凛々しい梓の笑顔が輝いていた。
「後ね・・・約束守れないかも♪」
「何の話だ?」
「へへ♪ 内緒♪」
「変な奴・・・」
そして、お風呂に龍徳が入っているとガチャと扉が開き梓が入って来た。
「やっぱり・・・」
「エヘ♪ どうしても最後に龍徳さんの背中を流したいなぁ~って思って♪」
「はぁ~好きにしろ。」
「やった~♪ じゃ~失礼しま~す♪ 何この傷・・・って・・・何したらこんなに・・・」
「ああこれか? これは、惚れた女を命がけで守った名誉の勲章ってやつだな♪」
背中には計58針もの傷跡。肩には25針の傷跡。髪で隠れてはいるが頭にも傷がある。
太ももや腕にも痛々しい傷跡が残っていた。
後々、整形でかなり目立たなくなるとは言え、一回や二回の整形手術では完全に隠し切れない。
医療に詳しくない者でも、生きている事が不思議だと思わずにはいられない程の痛々しい傷跡を名誉の負傷と笑って語る龍徳に梓の胸がトクンっと波打った。
「どう?気持ち良い?」
「ああ♪ 良い気持ちだ♪」
「えっと・・・腕も洗って良いのかな?」
「良いよ♪」
「本当に?やった~♪ 痛かったら教えてね♪ 強さはこれ位で大丈夫?」
「ああ問題ない。」
「後は・・・胸も洗って良いかな?」
「約束を破ったからには最後の夜だ。好きにしろ。」
「うん♪」
そう言って片手を龍徳の胸に置く。
「少しはドキドキしてくれた?」
「良い女が、ここまでしたらドキドキしない奴がいるのか?」
そう言って梓の手を心臓に当てる。
「あっ・・・フフ♪嬉しいな♪ 今まで子ども扱いだったから・・・本当に嬉しい♪」
「子ども扱いか・・・」
「違うの?」
「・・・否、梓がそう思ったのならそうだったのかもな。」
「う~ん・・・龍徳さんは頭が良すぎて良く分かんないや♪」
「さぁ~気が済んだか?」
「えっと・・・一緒にお風呂に入っちゃダメかな?」
「好きにしろ」
「うん♪ でも恥ずかしいから薄暗くしても良いかな?」
「さっきなんて言ったか聞いてなかったのか?」
「エヘ♪ 薄暗くさせてもらうね♪」
そして2人で浴槽につかる。
『ヒィ~緊張するよ~・・・龍徳さん・・・本当にドキドキしてんの? 全然変わらないんだけど・・・』
恥ずかしくて龍徳から顔を背けていたが、チラチラと龍徳を見つめてしまう。
「何だ?言いたい事があるならハッキリ言えよ?」
「えっと・・・本当にドキドキしてるのかなぁ~っと思いまして・・・」
「今はしてないな。」
ガーンっと落ち込んでしまう。
「そ・そうだよね・・・アハ・ワハハ・・・はぁ~」
『少しは女性として見てくれてると思ったのに・・・ちぇ・・・』』
「悪いが先に上がるぞ。」
「あっ・・・う・うん・・・ありがとう一緒にお風呂に入ってくれて・・・」
ショボ~ンと捨て犬の様な顔になる。
「ったく! さっきまでの自信にあふれた梓はどこに行った!」
「そう言われても・・・」
「これが最後だ。もう2度と言わない。約束を破ったからには明日出て行ってもらう。」
「そ・そうだよね・・・」
「だから今日だけは好きにしろって言ったんだが?」
「それって・・・ゴクリ・・・あの・・・その・・・」
『ヒィ~恥ずかしい・・・でも言わないと・・・』
「ないならもう良いな・・・」
「ちょっと待って!待ってよ・・・」
「何だ? 早くしろよ」
「わ・私を・・・抱いてくれませんか! ううん!今から私が龍徳さんを襲うから!覚悟してね!」
その発言に笑ってしまう。
「プハッ♪・・・俺犯されちゃうの? クク♪ やれるのもならやってみな♪」
「じゃ~こっちに来て下さい。」
「何で?俺今から風呂出るんだけど?」
「あっ・・・そうでした・・・う~ん・・・」
するとザバァ~っと梓が風呂から出て来て龍徳の身体を後ろから抱きしめた。
「へぇ~」
「今、やるじゃん梓って思いましたね!」
「思った♪」
「覚悟を決めた女性は強いんだからね! えっと・・・この後は・・・どうしよう?」
「クスクスクス♪ ホント変わらないな梓は」
そう言って後ろの梓を正面に立たせて顎を持ち上げた。
「ヒャァ~・・・ドキドキしますが・・・」
「ドキドキさせてんだよ・・・キスされるのが嫌なら逃げな。」
「はぅ・・・ダメ・・・我慢出来ない!」
龍徳が近づく前に梓の方から抱き着いてキスしてしまう。
「ンン~プハァ・・・これがキス・・・」
「ククク・・・先に襲われちゃったか♪」
「私だってキス位出来るんですからね!」
「プハッ♪・・・本当に面白い女だよ梓は♪」
「あぁ~また馬鹿にしてるなぁ~!」
「そりゃ~そうだよ・・・」
「なんでよぉ~キスだよ?キス!」
「バ~カ、大人のキスってのはこうすんだよ!」
そう言って強引に梓の唇を奪う。
『はぅ・・・ヤダ・・・舌が入って・・・ンン・・・なにこれ・・・・気持ち良い・・・』
「はぁはぁはぁ・・・」
「これが大人のキスだ。」
「凄かった・・・ハッ! わ・私だって出来るもん!」
そう言って龍徳に挑むようにキスをする。
『私・・・今凄い事してる・・・でも・・・幸せ・・・』
「はぁはぁはぁ・・・ど・どうよ!」
「プハッ♪・・・俺やっぱお前の事好きだなぁ~♪」
「えっ・・・それって・・・」
「深い意味は無いよ♪ ここからはレクチャーしないからな♪」
「どう言う・・・ハァン・・・ヤダ声が・・・イヤン・・・そんなところ・・・ダメ・・・ンン・・・はぁはぁはぁ・・・」
「ゾクゾクしたか? 鎖骨って気持ちが良いだろう・・・」
「そ・そんなところ嚙んじゃ・・・ダメ・・・ンン・・・」
『さっきまでと全然違う・・・なにこれ 私が女になっていくよ・・・』
その後、ベッドに連れて行き梓の身体を労わる様に優しく愛した。
龍徳が触れる度に身体を痙攣させ全身で喜びを表す梓が
「龍徳さん・・・お願い・・・もう・・・欲しいの・・・」
痛みがある者の言われる程は痛くないと梓は思った。
処女を失う痛みより身体中を駆け巡る幸福と言う名の快感が、その痛みを上回る。
「アン・・・気持ちいい・・・」
「無理するな・・・」
「ううん・・・本当に・・・身体が喜んでいるのが分かるの・・・ハァン・・・気持ちいよ・・・龍徳さん・・・私・・・今幸せだよ♪」
「そうか・・・」
ユックリと、ユックリと優しく愛し合う。
そして、龍徳が目覚めると梓の姿は消えていた。
「本当に律儀な奴・・・全然変わらないや・・・」
そして、テーブルの上に梓が残した手紙があった。
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大好きな龍徳さんへ
貴方に黙って出て行く事を許して下さい。
これ以上一緒にいると・・・
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っとここから涙が落ちた後が続いていた。
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貴方と出会えた事が私の一生の思い出です。
本当に貴方と出会えてよかった。
私の我が儘を聞いてくれてありがとう。
私を導いてくれてありがとう。
私を愛してくれてありがとう。
これでも私の初恋だったんですよ
だから、初めてが龍徳さんで本当に幸せでした。
この淡い思いを胸に私は良い女になるから・・・
本当に大好き・・・大好きだよ・・・
さようなら・・・私の龍徳へ
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そして、梓は・・・
「ウエェ~ン・・・大好きなのに・・・ウェ~ン・・・離れたくないよぉ~・・・ヒック・・・逢いたいよぉ~抱きしめて欲しいよぉ~ウェ~ン・・・これ以上いたら・・・ヒック・・・ダメだって・・・ヒック・・・分かってるけど・・・ヒック・・・それでも離れたくないよぉ~エ~ンエ~ン・・・愛してる・・・愛してるのぉ~ウエェ~ン やだぁ~・・・」
薄暗く誰もいない道路を自分の家に向かって歩き続けた。
龍徳が偶に浮かべる表情は梓に向けたものではないと分かっていた。
それでも何度かは確かに梓に向けて優しく微笑んでいたのだ。
「流石に驚いたよ・・・梓とまた会うとは・・・また、泣かせちまったな・・・」
それは、最初の人生での5番目の彼女。
高校2年生の時に知り合って、龍徳から告白して付き合った女性だ。
当時、暴れていた龍徳を一生懸命に支えてくれた一人。
当時から3ヶ月と続かなかった龍徳の女性の中で唯一1年以上付き合った女。
新木場に住んでいた彼女は県内でもトップレベルの高校に通っていて電車の中で痴漢にあっているところを龍徳が助けた事で知り合った。
素直で、努力家で、龍徳に一途な彼女を大事にしたかったが、梓の両親から猛反対されたのだ。
それでも梓は健気に龍徳に尽くした。
だが、娘の心配をした母親の必死な思いを龍徳は受け止めた。
「貴方とあの子では進む道が違うの!分かるでしょう! 貴方は一生娘の面倒を見れるの? そんな覚悟もないのに娘をたぶらかさないで! このままだと娘は絶対に不幸になるの! 今だって・・・学力が落ちて・・・兎に角! あの子の幸せを本気で考えれるなら今すぐ分かれてちょうだい!!」
「あんなな言葉に踊らされる程、当時の俺は弱かったんだな・・・」
この時代の龍徳はまだドキドキする様な恋愛が出来ていた。
だが、これを最後に女性に対してドキドキしなくなってしまった。
ある意味で、当時の龍徳が一番愛した女性と言っても過言ではないのだろう。
だから、お台場海浜公園で彼女を見た時に驚いたのだ。
「早く来い!置いて行くぞ!」
「あっ!待ってよぉ~! 歩くの早過ぎ~!」
「梓が遅いだけだ。」
「私小走りなんだけど?」
「何だ?足が短いって自慢か?」
「なっ! 酷くない?」
この会話は、最初の人生で2人の間に実在した会話。
この時、龍徳の目には涙が伝っていた。
それを見られたくなかったから早歩きだったのだ。
本当であれば手を引いて歩きたかった。
だが、今回の人生では、それは許されない。
それでも最後にはエスコートしてしまった。
最初の人生で、彼女の想いを無視して強引に分かれた苦い思いで・・・。
だからこそ、今回は彼女から別れられる様に仕向けたのだ。
「俺なんかにはお前は勿体ないほど良い女だったよ・・・幸せになれよ梓」
8月29日は梓の誕生日。
9月に出会った為、最初のプレゼントは出来なかった。
一年後のプレゼントとして、用意していたのが、梓の誕生日ペリドットのイヤリングだった。
喜ぶ彼女の姿を楽しみにしていたが、その前に2人は別れてしまった。
既に購入したペリドットのイヤリング。
それを見る度に当時の龍徳の胸は痛んだ。
あの日、あの時、あの場所で偶然、梓に逢ってしまった。
あの時終わってしまった続きが始められる・・・
悲しい結果になるのは最初から分かっている。
それでも彼女の幸せの為に何かをしてあげたかった。
だからこそ龍徳は、この日だけは時間を作ろうと必死で動き続けたのだ。
やがて別れる時の為に・・・
最初の人生で渡す事の出来なかったプレゼントと今回のプレゼントとして指輪を買った。
右手の薬指に付けたのは龍徳のメッセージ。
それは、恋愛運をアップさせ新たな恋が見つかるおまじない。
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文字数は少ないですが、出来る限り毎日アップしていこうと思いますので宜しくお願い致します。