料理
「さて! この家に泊めるにあたってルールは絶対に守る事!」
「う・うん・・・」
「先に言っておくが! 俺を襲うなよ!」
「うん襲わないようにする・・・って!逆じゃない? それ!私が襲われるんじゃないの?」
「俺を襲わないのであれば俺がいない間も自由に使って構わない。」
「それで良いなら・・・逆に私の方がメリットだらけじゃない?」
「あれ?もうウチって言うのは止めたのか?」
「アハハ・・・やっぱり分かってたわ、この人・・・龍徳さんには全部バレてるっぽいから止めたの!」
「プッ・・・ククク・・・」
「何で笑うのよぉ~」
「イヤ・・・何でも・・・・」
そう言いながらもクスクスと笑っている。
「フン! 子ども扱いして!」
「そうそう! ほら!」
そう言ってマンションのカギを放り投げた。
「これって・・・」
「それ持ってろ。」
「良いの?」
「ああ。そもそも週末はいないし、日中もいないから自由に使え。」
「うん・・・ありがとう・・・」
「オッと!ここに泊める条件だが・・・」
「・・・龍徳さんなら良いよ・・・」
ポッと頬を染めてキャミソールの肩ひもを片方ずらす。
その瞬間ベシっと額を叩かれた。
「痛~い!なによぉ~!」
「アホ!勘違いすんな! 梓を止める条件は、この家の掃除と俺がいる時だけ料理を作る事だ。」
「へっ?・・・たったそれだけ?」
「ん?そんなに俺に抱かれたいのか?」
「いえ!そんな事はありません!」
「プハッ♪・・・それと、この家に入れるのは最大で8月末までだ!」
「分かった・・・」
「それと・・・これが当面の生活資金だ。無駄遣いするなよ?」
財布の中から帯の付いたお金を渡す。
「って!こんなに使わないって!」
「アホ!誰がお前だけに使うと言った! 俺がいる時は、食材は最高級にしろ。ちゃんと自分の分も用意しろよ。」
「うん・・・でも・・・これ持って私がいなくなるとか考えないの?」
「ん? そんな金でか? 出て行きたいなら出て行って構わないぞ?」
「で・出て行かないよ! ちょっと聞いただけじゃない!」
『私なんか眼中にないって事だ・・・何かムカつく!』
「後・・・服は好きに買え。」
「好きに買えって言われましても・・・」
「言葉通りだよ。どうせそのリュックの中に着替えは入ってないんだろう?入ってるは精々パンツが2~3枚だろうし」
「なっ!何で知ってるのよ!」
「ハハ♪ 梓は正直者だなぁ~♪」
「ハッ・・・・」
カァ~っと顔が赤くなる。
「買ってやる・・・好きかって洋服買うからね!」
「ちゃんと自分で持てる分だけにしろよ? 新しい旅行鞄買っても良いし後は好きにしろ。」
「う・うん・・・」
『なんなのこの人・・・なんだろう・・・ちょっとワクワクしてきた♪』
「先に風呂入るけど・・・覗くなよ?」
「逆じゃない? さっきも言われたけど?」
「覗かないならOKだ♪」
『さっきからアレ・・・本気で言っているよね・・・ワァ~!!考えるのやめよう!』
こうして一夏の家出少女との生活が始まった。
「ふわぁ~良く寝たぁ~♪」
キョロキョロと周囲を見渡す。
「うん・・・夢じゃない♪」
部屋を出ると正面の扉に≪立ち入り禁止≫と張り紙があった。
「アハハ・・・」
そして、ありもので料理を作り始めた。
「懐かしいなぁ~昔はこうやって料理作ったなぁ~♪」
そして、料理を作り終えると
「どうしよう・・・ノックなら大丈夫だよね・・・」
昨日の夜、風呂から出た龍徳は梓に背を向けたまま
「先に寝る」
っと言ってそのまま部屋に入ってしまった。
自分が寝ようと思った時にはなかった張り紙があったので、どうしたら良いかで悩んでしまう。
コンコンコン!
返事がない。
コンコンコン!!
「死んでるんじゃないのかしら・・・」
そう思ってドアノブにそぉ~っと手を伸ばす。
「オイ!勝手に入るなっていったはずだぞ!」
っと背後から突然声を掛けれてた。
「キャァァァ~変態!!」
「ちょ・ちょっと待て!誰が変態だ!」
「あれ? 何で龍徳さんが後ろにいんの?」
「朝の日課でジョギングしてきただけだ。」
「あっ・・・そうだったんだ・・・死んでいるのかと♪」
「勝手に殺すんじゃない! にしても良い匂いだな♪」
「あっ!そうだった!ご飯が出来たから呼びに来たんだよ!」
「あぁ~その前にシャワーを浴びさせてくれ♪」
「うん♪」
そして、龍徳がシャワーを浴び終え一緒に朝食を取り始めた。
『昨日は気が付かなかったけど・・・この人メチャクチャ美形なんだけど・・・それに凄い筋肉・・・本当に何者なの?』
「どう?美味しい?」
「ふむ・・・まあまあだな。」
『ヌヌヌヌヌ! 挑戦状と見た! 頭に来た!絶対美味しいって言わせてやる!!』
そして、梓は龍徳に言われた通り身の回りに必要な物を遠慮なく購入。
食材も良いものを選んで購入した。
「グフフフフ・・・絶対にギャフンと言わせてやる!」
龍徳はと言うと今日も仕事で動いていた。
学校はと言うと期末試験も終わり出席日数は足りているので、このまま夏休みいっぱいで、今回のプロジェクトを終わらせる気でいた。
そして、伝えていた通り夕方になるとマンションに帰ったのだった。
「どう?」
「う~ん・・・まあまあだな。」
っとまたしてもダメだし。
この日から梓は料理を追求し始めた。
「悔しい・・・絶対に旨いって言わせてやるんだから!!」
そして、8月に入ると
「ホイッ! 今月分の生活費。」
そう言って封筒にまたしても100万円が入っていた。
「へっ?いらないよ?」
「余るなら余ったで、梓のバイト代だと思え。・・・それよりも、ちゃんと良い材料買っているのか?」
「グヌヌヌヌ・・・・」
そして日中。
「はぁ~何がいけないんだろう・・・美味しいと思うんだけど・・・」
そして、カレンダーを見る。
「今日の夜からいないんだっけ・・・」
今日は木曜日。
ここから日曜日の夜まで帰ってこない。
「日曜日こそ勝つ!!」
そして、龍徳がいない間に徹底的に追及する。
「うん♪ 美味しい~♪ う~ん・・・」
≪まあまあだな。≫
「ヌォ~!! こんなんじゃだめだ!もっと美味しくしないと!」
気合の入った梓は美味しい食材は只管歩きまくって探し始めた。
「グフフフフ!なるほど・・・野菜でもこんなに違ったとは・・・日曜は勝つ!! 見てろよぉ~!!」
そして、日曜日の夜。
「早く帰ってこないかなぁ~」
その時ガチャっと扉が開いた。
「ただいま。」
「帰って来た!!」
ピカ~ンっと目が輝くと玄関に向かう。
「お帰り~♪ ご飯できてるよ♪ それともお風呂にする?」
「腹減ったから飯が良いな♪」
「は~い♪」
「クスクス♪ あの目が、余程悔しかったんだろうな♪」
「今日はシンプルにステーキにして見ました♪」
「おぉ~旨そうじゃん♪」
「ふむ・・・」
「ど・どうかな?」
龍徳の食事を食い入るように見つめる梓。
「随分ましになったが、まだまだだな。」
「えぇ~!そんなぁ~」
「だが、ご飯は文句なしだ♪」
「本当?」
「ああ。コメの味と香りがシッカリしてる。」
「でも、このお肉は有名なお肉屋さんで仕入れたA5ランクのヒレだよ?」
「この肉はまだあるか?」
「うん・・・あるけど・・・」
「頑張ったご褒美に特別に教えてやるか・・・ちょっと来い。」
「うん・・・『努力しているのは認めてくれるんだ・・・』」
そう言って龍徳が厨房に立ってステーキを焼き始めた。
「そんなに火を細くしたら焼けないよ?」
「梓は真面目で努力家だ。だが、ちょっとせっかちなところがあるようだな♪ だから、料理だけじゃなくって偶には時間を掛けた方が良い時もあるって事を覚えた方が良い。」
「どう言う事? あっ!焼けてきた・・・」
「食パンって水分が無くなったらどうなるか知っているか?」
「知ってるよ!カチカチになるじゃん!」
「それは、なんでだ?」
「乾燥するからでしょう?」
「そうだな♪ 時間と共にパンの水分が蒸発するからカチカチになるよな?」
「うん。」
「じゃ~焼いたらどうだ? 適度じゃなく焼き過ぎたパンはどうなるかな?」
「そりゃ~焦げるからカチカチになるでしょう?」
「なぁ~面白いと思わないか?」
「どう言う事?」
「食材を必要以上に焼き過ぎたら固くなるって分かっているのに皆、中火や強火で焼いちゃうんだけど何でかな?」
「面倒臭いからじゃない?」
「フッ・・・そうだな♪ みんな時間に追われているから料理をちゃっちゃと終わらそうとするよな♪ まぁ~中には美味しく料理をする為に時間を掛ける人も多いけど・・・よし!そろそろ良いかな♪」
包丁で切ってからお皿に盛り付けテーブルに梓を座らせる。
「本日は、梓様の為に愛情を込めてステーキを焼かせて頂きました♪ 是非お召し上がりください♪」
仰々しくポーズを取って一礼する。
「アハハ・・・じゃ~頂きま~す♪ はむ・・・えっ・・・なにこれ・・・超美味しい~♪」
「お気に召して頂けたようで何よりです♪」
「全然違うじゃん・・・」
『私・・・てっきりワザと言っているのかと思ってた・・・』
「じっくり話しながら丁寧に仕上がり具合を観察して、漠然と調理するのではなく目の前の真実に目を向ける。そうするから最高の結果を出せるんだと思うぞ♪」
「私は火が強過ぎたんだ・・・」
「まぁ~俺もせっかちだから普段はこんな焼き方はしないんだけどね♪ 俺の最愛の人から教わったんだよ♪」
「龍徳さんの最愛の人?」
「そう♪」
一瞬切なげな眼をして記憶を遡る。
「マジでうめぇ~♪ それにしても美味し過ぎるんだけど!?」
「フフ♪ いつも大袈裟なんだからぁ~♪ 私がやっているのは、限られた条件でどれだけ龍徳君が喜んでくれるかなぁ~って作っているだけだよ♪」
「いやいや・・・そんな次元じゃないんだけど・・・」
「クス♪ 時間を掛けて丁寧に料理すれば誰だって出来るよ♪」
「時間を掛けて・・・うぅ・・・志津音の愛情を感じる。」
「あれ? ちょっと!泣いてるの? もぅ~よしよし♪ 愛情はいっぱい入ってるからね♪ でも、喜んで貰えて良かったぁ~♪」
そして、回想シーンが終わっても龍徳は戻ってこない。
「エヘエヘ♪」
「怖っ!」
「ハッ! ヤベ~帰ってこれなくなるとこだった。」
「フフ♪ 本当に好きなんだね♪ ちょっと羨ましいや♪」
「どうだった? 美味しかっただろう?」
「うん・・・悔しいけど本当に美味しかった・・・」
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