無二の親友
奴らに近づくと同時に一人の男の背中に飛び膝蹴りをかます。
「グハッ!」
6メートルは吹っ飛んだな。
「なっ!・・・グェ!」
着地すると同時に隣の男の顔を掴んでもう一度飛び膝蹴りを叩き込んだ。
倒れ方がヤバいな・・・コンクリートに頭を打ち付けたから心配したが、見悶えているから取り敢えずは大丈夫だろう。
これで残り4人
「何だテメェー!!」
ここまで僅か3秒。
相手の大勢が整う前に・・・
2人を屠ると同時に茜の腕を取っている男に近づくと
「チッ・・・反応が良いな・・・」
茜を投げ飛ばしてから迫る俺に
「シッ!」
どう見ても空手の上級者。
前蹴りが俺の眼前に迫るが、予備動作が大き過ぎだ!
その蹴りを予測して美幸の方へと方向を変える。
だが、そいつも反応が早くその一瞬で美幸を盾にして背後に回る。
「手が出せるもんなら・・・グァ・・・」
目の前に人がいたら俺のフックは見えないぜ。
美幸にぶつかる程接近してから男の横顔に右フックを叩き込む。
だが・・・
「痛っ!」
振り抜くと美幸まで殴ってしまうので、直撃の反動を利用して一瞬で止めた
そのせいで俺の右腕が悲鳴を上げたのだった。
「龍徳君・・・」
「出来れば茜を連れて逃げろ!」
「野郎!!」
さっきの男がすかさず間合いを詰めて俺に上段蹴りを叩き込んだ。
「グゥ・・・」
両腕を上げて防いだものの先程のパンチで痛めた右腕が使い物にならなくなった。
「痛てぇ~な!!」
「痛てぇ~じゃ済まねんだよボケが!!」
腕の痛みに一瞬、背後の警戒が緩んでしまった。
「グァ・・・」
後頭部への一撃は躱せたものの肩に木刀が叩き込まれてしまった。
『ヤバい・・・右肩を・・・』
完全に右肩が折れたのか外れたのか・・・
「ざまぁ~ねえな! イキナリ喧嘩吹っかけやがって死ねよボケ!」
「この位ちょうど良いハンデだ!」
万全ならどうにでもなったが、この身体では正直辛い。
相手が掴みかかってから飛び蹴りを俺に叩き込む。
その膝を片手で防ぐが片手だけでは吸収しきれなかった。
「チッ・・・」
『こんな感じの事が昔に合ったな・・・ってそんな事考えている余裕はないな・・・仕方がない・・・。』
空手男が間合いを詰めて前蹴りを放つと同時に背後の男も木刀を俺に叩き込もうとしていた。
『先ずは・・・こいつからだ!』
空手男の前蹴りを躱さず一歩間合いを詰めて受け止めた。否、敢えて喰らった瞬間に自分から吹き飛ばされた。
「なんだ・・・!!」
躱すでも防ぐでもない行動に躊躇うのは無理もない。
多対一の時に俺がやむを得ない時に使っていた方法だ。タイミングをミスるとシャレにならないから出来れば使いたくなかったが、そうも言っていられない。
後方の男が木刀を振り下ろすより先に相手の懐に入り同時に肱を顔面に叩き込んだ。
「グベッ!」
鼻の骨が砕ける感触。
「て・テメェー・・・」
「これで・・・後2人・・・」
「強ぇ~なお前・・・だが!」
逃げずにどうしていいか動けずにいた茜と美幸が再び摑まっていた。
「どうしたよ正義マン!!」
「クズが・・・」
ちょっとマズいな・・・こんな時・・・アイツがいてくれたら・・・
すると突然・・・
「正義の味方!参上!!」
そう言ってイキナリ空手男の背後から殴り掛かってきた男がいた。
「この声・・・」
「なによぉ~こんな面白そうなイベント♪ 俺も強制参加させてくれよ!」
「オラッ!どうしたよ!・・・ん?んだよ・・・こいつ終わってんじゃん・・・」
「そりゃ~背後から全力で後頭部を殴られたらそうなるだろう・・・」
余りにも懐かしくて思わずツッコんでしまった。
「ったりめェ~だろうが!相変わらずだな要!」
「ん?お前どっかで・・・オッと! ナイフ出して・・・それで俺に勝てると思ってんかよ!」
所謂サバイバルナイフを引き抜いた最後の男が久我要に遅いかかった。
「ば~か・・・オラッ!」
「相変わらず卑怯な奴だな・・・」
ズボンの中に入っている砂を掴んで相手に向かって投げ付けた。
「グッ・・・何しやが・・・ゲボッ・・・」
どうしても目に異物が入ると手で押さえてしまう。
その反射を利用してガラ空きになったボディーに久我の蹴りが突き刺さる。
「こんなオモチャで遊んでんなよテメェー!」
蹲った男の顔目掛けて鉄板入りの安全靴を叩き込む。
『うん・・・全く変わってないなコイツ・・・』
「何だよ終わりかよ!? まぁ~ちった~遊べたかよ。」
「助かった久我。」
「あ~ん?お前どっかで・・・」
眉間に皺を寄せて龍徳の顔をジロジロにらむと
「おぉ~!!あん時の!!」
「よぉ・・・久しぶりだな・・・」
「オメェ~良く俺の名前覚えてやがったな。」
「フッ・・・以前言っただろう・・・そっくりな奴がいたって・・・。」
「そう言えばそんな事言ってた気がするな・・・ってお前さっき俺の事を要って呼んだよな!どう言う事よ!俺は言った覚えわないぜ!」
「フッ・・・知り合いの名前が要なんだよ・・・痛つつつつ」
「へぇ~そいつはスゲエ偶然だな・・・それより・・・何だお前ケガしてんのか?」
「ちょっと前に退院したばかりでな・・・ちょっとへまこいた・・・」
「スゲエなお前・・・それでこいつ等と喧嘩してたんかよ・・・お前、名前何て言ったっけ?」
「神山だ・・・神山龍徳・・・。」
「神山ね・・・何かお前とはまた会いそうな気がするな!」
「ハハ・・・俺はあんまり喧嘩したくないから願い下げだけどな♪」
「連れね~事言ってんなって!」
「ハハ・・・そうだな・・・俺も不思議とそんな気がするよ・・・」
実際、龍徳が卒業するまでに偶然5回も久我と遭遇して一緒に喧嘩をする事があったが、それはまた別の話だ。
「ハッ!あんた何か良いな!これからは会ったら呼び捨てで良いよな?」
「フッ・・・認めた奴だけ呼び捨て・・・見下す奴には君付け・・・」
「何で知ってんだ?」
「本当にそっくりだな・・・懐かしいよ・・・。」
「何か分かんね~けど・・・またな遊ぼうぜ神山!」
「ああ・・・本当に助かったよ要。」
「まぁ~オメェ~に呼ばれるのは許してやんよ!」
「ハハ・・・そいつはどうも! またな要。」
「ああ。またな神山・・・違うな・・・またな!龍徳。」
迂闊にも涙が零れてしまった。
昔の俺の無二の親友だった男だ・・・。
何処に行くのも一緒だった。
此奴と一緒に喧嘩して負けた事がない。
此奴も勉強が嫌いなだけで本来頭が良い。
親父には逆らえず高校3年の夏から勉強して大学に行った奴だ。
俺も同じ大学だったから高校から6年以上の付き合いだった。
だが、大学4年生の時にヤクザに刺されて呆気なく死んでしまった。
喧嘩にナンパが大好きな奴だった。
毎日俺にナンパさせるから何度喧嘩したか分からない。
基本的には優しい奴だった。
口は悪いし態度も悪いが、困っている奴を放っておける奴じゃなかった。
出来ればその未来を変えてやりたいが・・・これ以上、未来は変えない方が良いと思った。
そして、俺はこの時の怪我のせいで感知するのにさらに6ヶ月を要したのだった。
茜と美幸を連れて駅に向かって路地を曲がったところで、パトカーのサイレンが聞こえて来た。
駅に着くと望と静音が傷付いた俺を優しく介抱してくれた。
否・・・そうでもなかったな。
「痛いから離れろって、言ってんだよ!」
「うぅ・・・こんなに怪我して・・・」
「ねぇ・・・本当に大丈夫なの?」
「だから大丈夫じゃねぇ~って言ってんだろうが!!」
俺の怪我が悪化したのはこいつ等のせいかも・・・
それにしても・・・あそこで久我とあったのは偶然じゃないな・・・
新宿に自宅がある久我とは、何度となく新宿で遊んだ。
普段は寮生だが週末には自宅に帰る久我の家に良く泊めて貰った。
高2の夏に新宿で遊んでいた時に男女何人かのカップルが絡まれているところを助けた事がある。
思い返せば、俺が真っ直ぐにカラオケBOXに向かったのは偶然ではなく昔の記憶が頭を過ったからだ。
まさか、こんな形でまた会うとはな・・・
そして、夏が終わりに近づく中、我が神木商事は神木グループへと大成長していた。
株で大もうけした事が大きかったが、それ以外に人材の成長が著しかった。
最初に雇った6人その内の一人田中美里は本社に入って貰ったが、残りの5人はそれぞれ子会社の社長に就任していた。
さらに成長著しい社員の一部は孫会社を経営するまでになっていた。
創業して3年。
今ではバイトを含む社員総数が3000人を超えた。
不動産関連事業は、全国に広がっている。
俺を支えてくれる木村さんの下で上田健也に一部門を任せている。
神木建設、神木不動産、神木リフォームは今や話題の中心と言って過言ではないだろう。
ゲームソフトクリエイター関連も業績好調だ。
持田香が就任し今では社員数200名以上の会社となった。
貿易関連には上田勉が就任。
日本のブランドを世界に広めると同時に海外の衣食住に係わる商品を次々に仕入れては上田健也に流している。
卸業には中村浩平が就任。
テレビショッピングを中心に幅広く展開しお茶の間の話題をさらっている。
この業界はかなり細かくなったので、話を割愛する。
そして、アパレル部門には相川紀子が就任。
今では全国97ヵ所の店舗に広がっている。
元モデルの経験を活かし友達を集めて美容関連の会社も拡大していった。
美容関連の店舗を入れれば全国に250を超える店舗を管理する様になった。
他にも運送業、飲食店、物流、車両とマルチに展開していた。
今では、総売り上げ8000億以上の大手企業へと成長したのだった。
そこで、新たにビルを立て直す事となった。
その完成図を見て気が付いた。
2度目の人生で神木商事を探した時のビルにそっくりだったのだ。
そこで、絶対条件として上層部に徹底させたことがある。
それは・・・




