グループデート
そして、夏休み初日。
3人は“としまえん“に来ていた。
ハッキリ言って目立つ3人。
望は、身長が158㎝と小柄だが、脱ぐとかなりの我が儘ボディで、芸能人張りに可愛い。
静音は、身長が167㎝と当時の女性にしては大きい方だ、顔も綺麗だが、モデルの様な体型をしている。
そして、龍徳は現在180㎝を超える長身なので見た目的にも成人男性にしか見えない。
3人が歩いているだけで周りが騒めく声が聞こえて来る。
「それにしても・・・このテント本当に便利だよねぇ~♪」
「優雅だなぁ~♪」
設置されたサマーベットに横たわりサイドにセットされたテーブルのドリンクを飲む。
上に張られてサンシェードの隙間から太陽が覗いていた。
「2人共恥ずかしくないのか?」
「「何がですか?」」
「いや・・・セクシーな水着だなぁ~って思ってな・・・。」
「フフ♪ 龍徳君が喜んでくれるかなぁ~って思いまして♪」
「ウフ♪ そんなにセクシーですか♪」
望がフリルの付いたビキニで静音は際どいラインのビキニスタイル
「メチャクチャ色っぽいな♪後で脱がすのが楽しみだ。」
「エッチなんだから~♪」
「想像したら・・・ちょっと興奮しちゃいました・・・」
2人共エッチだが静音の方がM気質だ。
その後、プールで事ある毎に身体を触られまくった彼女達が、夜中に野獣と化したのは仕方がない話だ。
その他に友人達も誘ってのバーベキューや遊園地、映画に水族館と定番とされたデートコースを全て網羅していくのだった。
そんな中一つの出会いが待っていた。
毎年恒例の神山家のキャンプはお盆。
その時だけは家族で過ごす龍徳だったが、そこに将来の兄となる横浜武がいたのだった。
本来の未来では、姉の日野美は高校を卒業すると、専門学校に進み、無事一流企業へ就職する事になる。
そして、就職して3年目になる広告会社の営業に来た横浜武と出会う事になっていた。
偶然に印刷の仕事を横浜が勤めていた会社に依頼をしていた父は、横浜の人間性を気に入って自分の娘と結婚させようとキャンプに連れて来た事があった。
本来このタイミングで横浜との出会いは無かったのだが、何故か他社で就職するはずの横浜が神山総合企画に努めていたのだった。
父は、未来と同じ様に横浜の事を気に入り、可愛がっていた。
俺も大好きだった義理の兄。
誰にでも懐っこい性格で、一瞬で相手の懐に入る不思議な魅力がある。
姉の日野美は、まだ専門学校生だから結婚の話へとは発展しないが、卒業と同時に結婚するのかも・・・そう思ったのだった。
ここまで大きく未来が変わると少し不安になってしまう。
本来の未来でも姉の家庭は幸せなのだから万が一にも失敗は許されない。
そして、お盆が終わった8月20日にもう一つの出会いが待っていた。
この出会いは、起こるべくして起こったのだが、まさかここで繋がるとは思ってもみなかった。
友達8人で新宿に遊びに行った時の事だ。
メンバーは俺を入れた男4人と望、静音、茜、美幸、祥子の女4人だ
お調子者の一馬が
「新宿に遊びに行こうぜ!」
っと俺を誘いに来たが、当初俺は断った。
すると
「頼むよ!今回は一樹と美幸ちゃんをくっ付ける為に企画したんだから」
「それは俺が行かないといけない理由にはならないな。」
そう言うと
「美幸ちゃんが、望が来るなら行くって言うんだよ。」
「だったら望みを誘えば良いだろうが?」
そう応えると
「聞いたよ。そうしたら静音と一緒だったらって・・・」
「だから・・・それなら静音を誘えよ!」
「そうしたら龍徳が行かないなら来ないって言うんだよ!」
「面倒臭いな・・・」
俺は、そもそも新宿があまり好きじゃない。
理由はふざけている訳じゃなく前回の人生で以上にモテた場所の一つなのだ。
特に原宿は厳禁。
あそこを通り過ぎるだけで何人の女の子から逆ナンされたか・・・
大学一年生で既にモデルと付き合うようになっていた俺には女子高生に全く魅力を感じなかった。
それだけに群がってくる女子高生が嫌で、嫌で仕方がなかった記憶がある。
自分がナンパする分には構わないのだが、一度に来られるのは勘弁だ。
それと、喧嘩も多かった。
女を連れていると必ずと言って良いほど揉め事に巻き込まれたものだ。
逆に女の子を救う為に喧嘩をした事も多かったが・・・何にしても前回の人生で飽きる程、遊んだ場所の一つだ。
姿こそ若返ってはいるが、精神年齢は3度目の人生を経て体感的には90歳を超える俺には面倒臭い場所だ。
お前等も歳を取れば分かると言ってやりたい。
だが、次の日の夜、望と静音がベッドの上で俺を大満足させてくれた事で、渋々ながら了承したのだった。
当日、男4人、女4人の予定に松永祥子が加わり4対5となっていた。
理由を聞くと
「どう考えたって望と静音はお前にゾッコンだからな!」
っと一馬の惚れた祥子も来る事になったのだ。
俺は出来る限り一樹と美幸の邪魔をしない様に空気に溶け込むようにしていたのだが・・・
「ねえねえ!あの人カッコ良くない?」
「うわ~・・・芸能人かなぁ~」
「他の子も可愛い~♪」
俺がどんなに空気になろうとこいつ等が目立つんだから仕方がない。
「お前達も空気になれ!」
「えぇ~私達のせいですか?」
「どう考えたって龍徳君が目立つからですよぉ~」
さっきから写真を勝手に撮られたり何故か握手を強請られる。
一樹達の邪魔をしない様に愛想良く我慢していたが、我慢の限界。
「ったく・・・多過ぎなんだよ!!」
俺達の周りに人垣が出来ている。
「やん!誰か私のお尻触った~」
「ちょっと・・・押さないで下さい。」
「どさくさに紛れて抱き着くな!!」
だから嫌だったんだ!!
「場所返るぞ!!」
そう言って人垣を掻き分け移動する。
「「はぁ~疲れたぁ~」」
「だから言っただろうが!!」
「「だって~こんなに凄いと思わなかったんだもん」」
良きピッタリだなオイッ!
「って・・・あいつ等何処に行った?」
「えっ?」
はぁ~これも“あるある”だ。
携帯電話が恋しい・・・。
そのツールが無い時代で、逸れた仲間を見つけるのは物凄く骨が折れる。
「ポケベル持ってる奴っていたっけか?」
「どうだろう・・・」
「多分いないんじゃないかなぁ~」
「だよな・・・帰るか・・・。」
本気でそう思ったのだが・・・
「「ダメだよぉ~!!」」
「やっぱり? ハハハ・・・はぁ~面倒臭せぇ~な~」
普通なら手分けして探したいところだが、こんなところで、女性だけにする訳にはいかない。
「取り敢えず駅の伝言板に書き込みに行くか・・・」
そして、駅に向かっている最中の事だった。
「キャァ~!やめて下さい!」
微かにだが路地裏から女性の悲鳴。
「拘わると碌な事がない・・・気のせいだな。」
そう言うと2人共ジッと俺の目を見ている。
「分かったよ!美幸の声に似てたって言いたいんだろう?」
「「流石~♪」」
「ったく・・・お前達はこのまま駅に迎え。この距離なら大丈夫だろう。」
駅までは50メートルもない。
その間にも危険がない訳ではないが運が良い事に駅の前に警察の姿が見えた。
「龍徳君はどうするんですか?」
「どうするって・・・助けに行くしかないだろうな・・・。」
「でも・・・」
「分かってるって、まだ完全に治っている訳じゃないからな無理はしないよ」
「本当ですか?」
「無理したくても出来ないしな♪」
「分かりました・・・行きましょう静音。」
「本当に無理しないでね・・・」
「ああ。何かあったら俺のポケベルを鳴らせ。」
「はい!」
「良い子だ・・・また後でな。」
そう言って身を翻すと声が聞こえた方へと走り出す。
「この辺りだと思ったんだが・・・」
耳を澄ますが声が聞こえない。
周囲に目を移しながらあるものが目に入った。
「おい!!大丈夫か一樹!! 返事しろ洋一!!」
「ウッ・・・ツツ・・・龍徳・・・」
「取り敢えずこれで額を抑えておけ!」
そう言って先程購入したタレントグッズのタオルを渡す。
「洋一までやられるとは・・・茜に美幸はどうした!?」
「アイツらに・・・連れて行かれちまった・・・」
「チッ!相手は何人だ!」
「6人・・・しかもナイフを持ってやがった・・・」
「格闘技経験者の洋一がやられたのはそう言う事か・・・」
「祥子とカズマはどうした?」
「2人は分からない。ここには俺達だけだ」
「分かった・・・2人共、歩けるか?」
「俺は大丈夫だけど・・・洋一は・・・」
「いや・・・俺も大丈・・・ッ!」
「無理するな・・・多分、腕の骨が折れている・・・駅に望と静音を待たせているから2人と合流して警察を連れて来てくれ!」
「分かった・・・龍徳はどうするんだ?」
「俺はそいつらを探す。 どっちに向かったか分かるか?」
そして、一樹が指を指した方へと俺は走り出した。
「この時代のボケ共はシャレになんないからな・・・無事でいてくれ・・・」
車に乗ってさえいなければある程度の予想は付く。
人ごみの無いビル、人目につかないビルの隙間・・・
「確か記憶違いじゃなければ、ここを曲がったところにカラオケBOXが・・・いた!
2人は腕を極められて微かに殴られた後が見えた。
『ふざけやがって・・・』
ビルの角を曲がったところで奴らを発見し全力で後を追いかける
『クソ・・・身体が重い・・・。』
あの事故から7ヶ月が経つが、全治2年と言われたからにはそれだけのダメージが蓄積されている。
リハビリを初めて5ヶ月。
医者が言うには常人の3倍は治りが速いらしいが、全力を出すにはほど遠い。
それでも人並み以上には動けるが、本気で動くと身体のあちこちが悲鳴を上げてしまう。
普通なら「その手を放せ!」なんてカッコいいセリフを吐くのかも知れないが、そんな愚かな事はしない。




